2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25350223
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松王 政浩 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60333499)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 科学と価値 / 科学者の価値判断 / 科学の価値中立性 |
Research Abstract |
25年度は主に以下の3つの点で研究の進展があった。 第一に、「科学と価値」の科学哲学的議論の出発点である統計学上の論争について、実在論的な観点からの研究を進めた。具体的には、本研究代表者が翻訳した『科学と証拠』の著者であるE. ソーバーと連絡をとる中で、ソーバーらが主張するAICにおける実在論と反実在論の融合に関する主張に対し、ソーバーと連絡をとりながら、彼らの議論の基本前提と問題点について検討した。その中で、彼らの主張の核となる、BICに対するAICの優位性根拠としての漸近的不偏性が、依然としてAICの実在的、反実在的部分の「理論構成上の」区別を支持するにすぎない点を明らかにした。この研究結果は、統計数理研究所の研究者らとの「統計科学の哲学研究会」(第一回)において発表した。 第二に、科学者の価値判断についてのケーススタディとして、気候科学者の価値判断を例とした研究を進めた。気候科学が政策立案において研究結果を提示する際の、「シナリオ」選択における価値観の反映可能性、また、社会的意思決定を行う「タイミング」について示唆するという点で科学者の価値判断が介入しうる可能性について吟味した。この研究成果については、STS学会主催によるシンポジウム「地球温暖化と科学コミュニケーション」において連携研究者とともに発表し、さらに『科学技術コミュニケーション』第14号に論文として発表した。 最後に、同じく科学者の価値判断に関するケーススタディとして、3.11後の日本地震学会の動向を科学哲学的議論に照らしながら詳しく分析した。分析の主な資料としては地震学会主催シンポジウムの報告等を用い、その中で、これまでの科学哲学価値論では十分捉えられてこなかった、新たな予防原則的価値判断が科学者の判断として含まれていること、およびその是非について検討した。この研究結果は応用倫理研究会において発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科学者が自ら行う科学的判断と価値判断についてどのような認識をもつべきかを明らかにし、これを教育プログラムにまとめるのが本研究の基本的な目的である。25年度の研究計画は、その土台となる「科学的判断と価値判断」の関係について、科学哲学内部の基礎研究(概念的研究)部分と、具体的な科学を例とした関連のケーススタディとの両面で研究を進め、教育への応用のための基本材料を得ることを目指していた。 基礎研究では、E. ソーバーとの継続的なやりとりをする中で、価値判断に関わりうる統計学上の問題について分析すること、およびH. ダグラスの「価値役割論」に不足していると思われる論点について整理することが、計画の主な内容であった。また関連のケーススタディとしては、連携研究者と気候科学に照らして統計的問題や科学哲学的価値論について吟味すること、ならびにダグラスを補う議論としての「科学者による予防原則の適用」を実際の科学において確認することなどを考えていた。 研究実績の概要に示したとおり、統計学関連の問題についてその成果を一部公表し、ダグラスに対する補論は地震学会の動向に注目したケーススタディの中でかなり深く問題を掘り下げており、その成果を一部公表した。また、連携研究者である気候学者との共同研究は、STS学会のシンポジウムの準備ならびに当日の討論によって行うことができた。したがって、当初の計画はほぼ予定通り遂行することができ、まだ発表していない研究部分と併せて、教育への応用材料の礎石は相当程度固まったと思われる。以上の点から、研究はおおむね順調に進展してると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、上記の基礎的な研究をさらに進めつつ、教育的応用に向けた準備を進めていくことになる。具体的には、科学哲学における価値に関する哲学的議論と具体的な科学の議論(価値に関わる課題など)の双方を、項目として整理する作業をまず行う必要がある。今年度は、教科書執筆(最終年度の目標)につながる形で、この項目策定作業を進めていきたい。また、これと平行して、既存授業の中で理系学生を対象とした価値論教育を部分的に実践する予定でいる。この教育実践に関して協力を仰ぐ予定のH. ダグラスと協議し、かつて本研究代表者がカンザス州立大学のB. グリマーと共同で行ったような共同授業(または設計に双方が関わる共同構築授業)を、26年度末ないし27年度のできるだけ早い時期に実施するつもりである。
|