2013 Fiscal Year Research-status Report
疑似科学的思考における認知バイアスの影響と批判的思考教育の研究
Project/Area Number |
25350243
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
菊池 聡 信州大学, 人文学部, 准教授 (30262679)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 批判的思考 / 超常信奉 / 科学教育 / 潜在連合テスト |
Research Abstract |
疑似科学信奉は、科学的知識や態度の不足ばかりではなく、逆に、科学への好意的な態度や探究心が促進要因となって、認知的媒介変数の影響から強化されるというモデルを、発達過程をふまえて検討する。本年度は、媒介変数として、批判的思考の態度と能力に注目し、疑似科学信奉との関連を調査するとともに、批判的思考能力測定の妥当性を検証することも目的とした。 これらの目的のもとに、中学1~3年生、高校1年生の計316名を対象として、能力テストと質問紙調査を実施した。批判的思考能力測定のために、Watson Glaser批判的思考テストなどを参考とした英語版論理能力テストを使用し、また批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)、科学的思考態度、疑似科学信奉尺度などとあわせた質問紙を配布し、授業時間中に実施した。 批判的思考能力の影響を検討するために、英語の文法や語彙能力を統制変数として関連性の分析を行ったところ、論理能力テスト得点の下位尺度と、批判的思考態度の間には、ほとんど関連性は見られなかった。一方、能力テスト得点は、疑似科学信奉の中でも、血液型性格判断信奉に負の関連が見られたが、その他の疑似科学や占い信奉とは明確な関連性が見られなかった。これらの主要な分析結果は平成26年度の日本教育心理学会において報告する予定である。 また、こうした自己回答式の質問紙調査では、社会的な望ましさなどの回答バイアスが多くかかることが予想されるために、潜在連合テスト(IAT)を用いた実験的検討に着手した。大学生30名を被験者として、岡部他(2004)の手法をもとに潜在的な疑似科学信奉を測定し、不思議現象態度尺度(小城他、2008)との関連性を検討したが、両者に明確な関連性は見られなかった。IATの項目や、態度尺度の精選を今後の課題とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、研究期間を通して、超常信奉と科学的思考との関連性の検討を、大規模な質問紙調査と、認知心理学的な実験手法の両側面から進めることに特徴がある。前者の質問紙調査では、現在までのところ、中高生を対象に、ある程度の規模の調査に着手し、有効なデータを得ることができたことから、研究の初年度は順調に推移しているものと考えられる。しかし、現段階では調査対象校が限定されていることで、中高生の学力や傾向性などについて、サンプリングの偏りが生じていることが当面の問題となっている。 また、日本では、批判的思考能力を測定するための適切な測定尺度が整備されていないことから、英語版の論理能力テストを利用し、このテストの有効性や、妥当性信頼性について一定の示唆を得たことによって、次年度以降の基礎的データを整備することができた。 ただ、多くの調査実験データを収集することができた一方で、これらを多角的に十分な分析が完了しておらず、研究成果の公表に結びついていない点で、課題を残している。
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Strategy for Future Research Activity |
質問紙調査に関しては、さらに3校以上でテストを実施して平成25年度のデータとあわせて分析の予定で進行しており、高校生に関しては十分なサンプルが確保できる見通しである。これらのデータについては、適切な対照群を設けて比較検討する必要性があり、そのための社会人調査も7月に予定している。この調査によって、前年度に未達成の諸課題の多くは解消できる見通しである。これらのデータを総合的に多変量解析を行って一定の成果をまとめ、次年度以降に公表することを当面の目的とする。 また、実験的検討に関しては、調査研究の結果を反映させて変数の設定などを行うために、平成26年度後半以降の実施を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
対象学校の都合による日程変更などにともなう人件費の変動や、物品の納入額と予定額の相違による誤差が生じた。そのため当初計画よりも安価な人件費、物品費で研究が遂行できたため、次年度使用額が生じた。 調査実験研究の一部が次年度に延期されたことにより、平成26年度に当初予定よりも多くのデータ分析作業が実施されることになった。そのため、当該年度に執行できなかった額については、26年度の人件費とあわせて、26年度に行われる調査データ分析の人件費等に充当する予定である。
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