2013 Fiscal Year Research-status Report
優生学運動における市民規範-アメリカの断種政策を中心に-
Project/Area Number |
25350379
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小野 直子 富山大学, 人文学部, 准教授 (00303199)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ / 優生学 / 断種 |
Research Abstract |
本研究は,近代国民国家形成期において浸透していった市民としての規範を,「身体」という観点から検証することを目的としている。具体的には,20世紀初頭のアメリカ合衆国の優生学運動に焦点を当てている。優生学運動の主な目標は,遺伝に関する科学的知識を社会政策に生かすことによって,「国民」の退化を防ぐことであった。優生学的に優れた人々の出産を奨励し,「不適者」を排除することによって様々な社会問題が解決されると主張された。「不適者」を排除するための手段のひとつが断種であった。そこで平成25年度は,20世紀初頭に各州で制定された断種法の調査報告書等から,優生主義者達が誰のどのような心身特性を社会的「不適」と定義したのか,そしてどのような手続きや方法を経て「不適者」を断種しようとしたのかを明らかにした。アメリカ合衆国では1907年にインディアナ州で世界初の優生学的断種法が制定されて以来,多くの州で断種法が制定されたが,断種対象者,断種方法,法的手続き,実施期間などは州によって様々であった。一部の優生主義者は連邦レベルでの断種法を推進しようとしたが,それが実現されることはなかった。こうして優生主義者達は,親になることを生得の権利というよりも「適者」の独占的な特権にしようとした。文明を強化するために未来の子供は健康な身体と健全な精神を必要としていると主張され,従って生殖はそのような特性を持つ「適者」に限定された。このように優生学は子孫の健康と質に関心を持っており,出産という役割を担うのが女性の身体であるという生物学的機能と,当時白人中・上流階級に行き渡っていた性別役割規範の故に,当然女性に焦点を当てることになった。そこで女性活動家達は優生学と女性運動を結び付けることによって,女性の地位を向上させようとしたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに数年間アメリカ合衆国の優生学運動について研究してきたためにそこで得た背景的知識や史料に基づいて,20世紀初頭に各州で制定された断種法の調査報告書等から,優生主義者達が誰のどのような心身特性を社会的「不適」と定義したのか,そしてどのような手続きや方法を経て「不適者」を断種しようとしたのかを明らかにすることができたことから,研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカ合衆国の断種政策がドイツにおいてナチスの政策に大きな影響を与えたことはよく知られているが,ドイツ以外の国々でも優生政策として断種が実施されたり議論されたりした。そこで今後は,アメリカ合衆国においてドイツも含めた他国の断種政策はどのように伝えられたのか,そして日本においてはアメリカ合衆国及びその他の国々の断種政策がどのように伝えられたのかを明らかにする。また,遺伝学や医療技術の発達により,社会的「不適者」の定義やその優生学的処置としての断種に対する人々の態度は変化していくので,その変容の過程も明らかにする。そこから,地域や時代を超えた,あるいはそれぞれに特有の「不適者」排除のメカニズムについて考察する。また,「不適者」排除は社会福祉政策や公衆衛生政策とも不可分であった。そこで今後は広く社会福祉や公衆衛生をめぐる議論についても理解を深め,その中で優生学がどのような役割を果たしたのかを検討する。
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