2015 Fiscal Year Annual Research Report
症例誌に基づいた医学史研究のイノヴェーション-昭和戦前期精神病院を実例として
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25350384
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 晃仁 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80296730)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 医学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
王子脳病院の患者症例誌を用いた研究は以下の三点に分類される。1) 患者の症例誌を中心とする資料をアーカイブズ学の視点のもとで整理し、2)患者の入退院の構造、入院期間中の医療の性格、患者の行動の分析、3) 精神病院の内部で起きたことと同時代の文化・社会との関係性を明らかにすること。 1) これまで露出していた患者の症例誌の資料を中性紙箱に入れ、患者の氏名の五十音順に分類し、研究論文などで用いた史料を追認する経路を確保した。 2) 患者の入退院の構造は、患者の在院期間と転帰が公費患者と私費患者で大きく違うことを明らかにした。公費患者の在院期間の中間値は2年から3年程度であり、約2/3が病院内で死亡していた。一方私費患者においては、在院期間の中間値は一か月強であり、死亡したのは一割程度であった。また数的には、公費が1割、私費が9割であり、公費患者に与えられる医療はごく少ないのに対し、私費患者はインシュリンショックや電気ショックなどのさまざまな当時の先端的な医療が与えられた。公費患者に「治療」が与えられるときには、暴力行為の直後の電気ショックなど、懲罰的な性格を持つものであった。病院の全体的な性格としては、短期の在院期間に集中的な治療を受ける私費患者に重点があった。 3) 精神病院の内部において、診療の基本には患者の発言があった。個々の患者は毎日診療を受け、医師の質問に対して答え、その答えが記録された。精神病院の外部においても同時期には、精神疾患と精神病院が文学の関心の焦点の一つとなっていた。多くの文学者や作家の家族が精神病にかかって精神病院などに収容され、芥川龍之介の「河童」など、精神病患者の言葉とされるものが、数多くの文学作品において取り上げられた。精神病院という場と精神疾患の発言は、精神医療の中で問題となって記録されただけでなく、文学などを通じて社会でも流通するようになった。
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Research Products
(10 results)