2013 Fiscal Year Research-status Report
伝統的溶解技法である甑炉操業法の科学的解明に関する研究
Project/Area Number |
25350393
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
宮田 洋平 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20325434)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永田 和宏 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (70114882)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 羽口比 / 有効高さ比 / 送風量および方法 / 装入物混成比および大きさ / 熱伝導 |
Research Abstract |
本研究のテーマである「甑炉の操業メカニズムの解明」を図るため、研究内容を二つに大別し、その前半として、本年度は甑炉の作成、燃料の選択、地金の調達を行い、それらを用いて主に送風に関する実験操業(2回)を行った。 甑炉の設計にあたっては、過去の(主に江戸期)の記録や、現在残されている遺物などを参考にする一方、燃料費などの経費を抑えるため最少の溶湯容量の大きさのものを前提とした。結果、溶湯最大量を約70kgとし、全高150cm、羽口(送風口)前炉内径30cmの大きさと決めた。木炭は、坩(炉最下部の溶湯が溜るところ)の立て炭に馬目樫備長炭、中甑の床込め用に樫黒炭、上甑に装入する追い込め用に松炭を用いることとした。地金は、砂鉄を木炭燃料で製錬した和銑を用いることとした。 研究項目は、炉構造の観点から「羽口比(羽口面の炉の断面積と、羽口の断面積の比)」と、「有効高さ比(羽口面から上部装入口までの高さを羽口面の炉の内径で除した値)」を検討することとし、操業上の観点から、「送風量・方法」や、「地金と燃料の装入量比」、「木炭の粒度」などを取り上げることとした。 1回目の操業実験では、主に測定機器の性能テストとして温度計4か所、酸素濃度計3か所をセットして操業を行ったが、十分な温度上昇に至らず、一部溶解したものの流出するには至らなかった。温度測定の分析の結果、送風量の不足が考えられるとして、2回目はより多くの風量を得られる送風機を用いるとともに、羽口の先端口径をすぼめることにより風速を増すよう改善して操業を行った。また事前に炉内の送風分布のテストも行った。前回に比べるとより高い炉内温度を得ることが出来たが、十分な流出を得ることが出来なかった。原因については、現在検討中である。 なお予定していた鋳鉄作品の調査については、日程調整の結果、次年度に行う事とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
溶解のメカニズムについての仮説として、地金の溶解温度の確保とともに、坩内での湯温低下防止を図る方策が必要と考えられるために、過熱帯(羽口周辺及びその上部)での効率よい燃焼と、坩における立て炭の十分な高熱化が必要と推定している。 前2回の操業においても、それらが十分に必要なレベルまで達していない状況であり、特に過熱帯における高温(1500℃以上)確保が当面解決しなければならない課題と考えている。 しかしその適正な状況を生み出すためには、キーワードにあげたような各要素が複合的に絡み合って関係しあっていると考えられる状況から、単一の項目に着目したテストでは適正・不適正の判断が困難であり、予定より多くの実験回数を必要とされる様相も見えてきている。 また、予定していた関係者に対する伝承技術についての民俗学的聞き取り調査が、担当者の逝去に伴い行えなくなったことも大きなダメージとなっていて、途絶える以前に実際に操業に従事していた人たちから、いわゆる操業の「勘所」といったものを聞き出せなかったことは、操業全体に影響を及ぼしている。 一方で、過去の技術としてあまり評価されていなかった間欠送風(鞴による送風で送風の途中、一瞬時送風が止まる)による温度上昇が確認されたことは成果の一つであり、甑炉操業のメカニズムの一環を示していると思われ、現代の冶金学的見地からでは問題にされていない視点の必要性も得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
2回のデータを分析検討し改善策を考え出して、まずは溶解状態を作り出したいが、そのための一つの要素として、羽口からの空気(酸素)の供給に注目したい。 効率化されたキュポラ炉との違いの一つに羽口の数があり、複数個設置して炉内に万遍なく空気を供給するキュポラ炉に対して、一個のみの羽口であることが特徴の甑炉においては部位によるばらつきを避けることが出来ないが、その弱点を補う方策を見出すことが改善の大きなポイントになると考えている。 具体的な方法としては、送風量および送風方法(間欠送風)や、羽口の形状(口径・傾斜角度)の改善などがあげられるが、上部からの熱の排出を防ぐ措置も必要と思われ、これに関しては装入する炭の大きさを小さくして隙間を密にすることや、地金の一回分の装入量を多くしていわゆる蓋をしたような状況にして効果を高める配慮も有効かと思える。 また坩の保温に関しては、酸素濃度の分析から酸素不足状態にある炉内雰囲気において、熱伝導による溶湯の保温保持のための方策を検討していきたい。 なお本年度(26年度)は、並行して鋳造作品の調査の実施も具体化させており、鋳型造型技術に関する知見を得るとともに、溶湯の量や質に関する情報も得られることを期待しているが、ほぼ途絶えつつある技術の復元において何よりも大事と思われる操業経験のある技術者(職人)からの伝授が困難な状況にあっては、さらに多くの情報を得るために、現代のキュポラ技術者や、冶金工学の研究者など幅広く意見を聞くことを行い、より効率的な実験となることを目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者と研究協力者とで、宮崎県及び栃木県に於いて鋳鉄作品の調査を行い、鋳型分割線や湯口の位置などを確認し、鋳型造型技術に関する知見を得る予定であったが、両者の都合が合わず、日程調整が困難であったため、25年度での調査が出来なかった。このことから、旅費を計上していたが使用していない。 宮崎県での調査を7月に行い、栃木県での調査を8月頃に行う予定である。
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