2015 Fiscal Year Annual Research Report
乾湿サイクルに伴う表面膜の状態変化が石窟壁画に及ぼす影響
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25350396
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
宇野 朋子 武庫川女子大学, 生活環境学部, 講師 (90415620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 研究部, 助教 (10523756)
伊庭 千恵美 京都大学, 工学研究科, 助教 (10462342)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 石窟壁画 / 乾湿サイクル / 保存環境 / 表面膜 / シェラック樹脂 / 熱水分移動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インド・アジャンター石窟寺院の壁画を対象として、壁画の表面に形成される薄膜による壁画の損傷の程度、とくに過去に塗布されたシェラック樹脂による影響を評価することを目的としている。 平成27年度は、以下の項目について検討した。 1)アジャンター第2窟の壁画のうち、おもにシェラック樹脂膜の塗布された壁画の保存状態を調査した。壁画表面には数ミリから数センチ径の欠損個所があり、内部では壁画の土壁が粉化・消失していることを確認した。このような現地での観察から、壁画彩色層の欠損箇所から土壁が優先的に劣化し、欠損が拡大していること、また、シェラック樹脂の存在が壁画の欠損の拡大を抑制している可能性を指摘した。屋外気象の把握のため、温湿度、日射量、風向風速のデータを回収し、分析を行った。 2)シェラック樹脂膜の透湿性能および吸放湿性能を調査した。樹脂を3~6回刷毛塗した場合の樹脂層の透湿抵抗は、0.5~3.5×1010m2sPa/kgであった。顕微鏡観察により確認した実際の壁画片の樹脂層の厚みは3回塗よりも薄いが、樹脂が厚塗りされた個所では同程度の透湿抵抗があると考えられる。吸放湿性能については、シェラック樹脂はとくに吸放湿が顕著な相対湿度領域はなく、低湿度から高湿度まで吸放湿性を有しているが、高湿域でも吸放湿量としては活性炭やシリカゲルの1/20以下である。 3)表面の乾湿の繰り返しによる壁画の内部の水分状態の把握のため、2)で得た物性値を適用し、表面の境界条件に温湿度の年周期の変動を与えた条件で、壁画層の温湿度を2次元で解析した。表面膜の透湿抵抗が大きい場合には、石窟内湿度の日変動や季節変動の影響を緩和しており、湿度変化による劣化に対しては、保存上有利であることを明らかにした。また、表面膜に欠損を有する場合の水分移動の影響範囲を確認した。熱水分以外の要素による樹脂の劣化と総合した保存環境の評価は、今後の課題である。
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