2014 Fiscal Year Research-status Report
DAISYを応用したコミュニケーション障がい者にもわかりやすい展示解説技術の開発
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25350404
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三谷 雅純 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (20202343)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生涯学習施設 / 聴覚実験 / 聞きやすさ / 波形接続型音声合成方式 / フォルマント合成方式 / 高次脳機能障害 / 失語症 / 緊急避難放送 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度に引き続き,平成26年度も館内放送の聞きやすさを問う聴覚実験を行った.実験はまずコミュニケーション障がい者であるかどうかを問わない対照群で行った.対照群は生涯学習施設の一般観覧者を想定して,兵庫県立人と自然の博物館で働いている男女に依頼した.さらにこの対照実験と平行して,コミュニケーション障がいのある兵庫県下の高次脳機能障がい者家族会や失語症友の会に協力を仰ぎ,家族会や友の会が日常的に活動をしているそれぞれの場所に出向いて,同じ形式の聴覚実験を複数回行った. 実験の質問は男女の職業アナウンサーが吹き込んだ肉声のデジタル録音,既存のディジタル図書に吹き込まれた女性による音声のデジタル録音,新たに作成した人工合成音声を用いた.実験の結果,一般の被験者を想定した男女では,女性の肉声が男性の肉声よりも有意にわかりやすかった.しかし,人工合成音声には男声・女声の間で差はなかった.そして人工合成音声よりも肉声の方が有意にわかりやすかった.ただし,マルチメディアDAISYと同様,音声の拡声と同時に絵や漢字かな混じり文を示すと,人工合成音声でも肉声と有意差のないわかりやすさであるという結果が得られた. 高次脳機能障がい者家族会や失語症友の会の会員から得られた結果はすでに解析が済んでいるが,実験の不足点を補うために,現在,内容を検討中である. コミュニケーション障がい者は症状がさまざまであるため,情報をコミュニケーション障がい者全員に届けるためには独特の工夫が必要であった.また展示解説技術は誘導案内など緊急時の放送にも応用できるが,一般の被験者を想定した実験の結果からは,音声と共にモニターに避難を促すビジュアル情報を提示するなどの工夫が必要であった.平成27年度は平成26年度までに得られた実験結果を基に目的を絞り,当初の計画に従って実験内容を改め,再度,聴覚実験を行う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究では,(1) コミュニケーション障がい者にとって、合成音声はデジタル録音や人の肉声に比べて、どのような聞き取りにくさがあるのか? (2) その聞き取りにくさは音響技術的に克服できるものなのか? (3) 音響技術的に克服できたとして、そうして新しく作りだした合成音声は、本当に多様なコミュニケーション障がい者にとって聴き取りやすいのか? という課題と目標を置いていた。音声合成エンジンには波形接続型音声合成方式とフォルマント合成方式がある.波形接続型音声合成方式は肉声に近いが,現在の入力方法では一定の技術が必要である.フォルマント合成方式はテキスト文と同じ入力方式が使えて簡便だが,聞き取りはコミュニケーション障がい者には難しいことがある.また,朗読をさせたときの発声は,肉声と同程度に滑らかであるとは言い難い.したがって,波形接続型音声合成方式を採用することで,ある程度コミュニケーション障がい者にも聞こえる人工合成音声が作成できると考えられるが,入力の難しさや滑らかな発声状況の克服は未知のままである.また,現在のところ,どのような音声を使っても理解できない高次脳機能障がい者は,少数ではあるが存在する.当然,展示解説技術の開発から,さらに視野を広げて考えれば,緊急時の誘導案内放送では,聞き取りが困難なコミュニケーション障がい者を含むすべての人に情報が伝わる工夫が必要である.その場合は視覚障がい者や聴覚障がい者などとともに,マルチメディアDAISYの特長を生かした,音声以外の伝達手段が有効になると思える.
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Strategy for Future Research Activity |
コミュニケーション障がい者にもわかりやすい展示解説技術の開発をめざした研究をこのまま続ける.ただし,コミュニケーション障がい者側の聞きやすさと共に,生涯学習施設で働く人びとの入力のしやすさも考慮して,人工合成音声だけにこだわらず,マルチメディアDAISY本来の特質も生かした展示解説技術のあり方を探りたい.
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Causes of Carryover |
「旅費」が当初予定したより少なかったが,学会参加の回数が,都合で少なくなったためである.また当初予定していた論文別刷り代金は,別の研究費が使えたので「その他」の支出がなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
聴覚実験を余分に行わなくてはいけなくなったので,予定を越えて使用する.また,他のいくつかの学術雑誌に投稿している/投稿予定であるため,当初予定していなかった別刷り代金が発生する.
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