2014 Fiscal Year Research-status Report
入館料問題を切り口とする博物館の公共性に関する研究
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25350406
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
瀧端 真理子 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (70330165)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 博物館 / ミュージアム / 入館料 / アメリカ合衆国 / 寄附 / 無料 / 優遇措置 / 公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.アメリカ合衆国における入館料調査の途中経過をまとめた。 (1)「アメリカ合衆国における博物館入館料の傾向と無料入館制度を支える多様な仕組み」を口頭発表した。公式HP等で入館料を確認できた299館中、大人の入館料が無料の館は60館(約20%)、寄附制の館は6館であった。スミソニアン協会傘下の博物館を除けば無料館は少なく、常設展部分だけで$10を超える館が約半数ある。こうした背景のもと、多様な無料・割引制度が存在することを報告した。 (2)「アメリカ合衆国の博物館入館料に関する調査(2)」を公表した。2013年度と同様の手法で米国の3地域155館を調査し一覧表を作成、無料・割引制度の概要をまとめた。今回の調査では誰でも常時無料の館は28館(18.1%)であった。米国では特に経済的に困難な人びとへの無料・割引制度が発達しており、その適用ルールは社会保障制度と密接にリンクしている。また、Blue Star Museums加盟館が前年度公表数値より500館程度増加(全米2,000館)、2013年度には70万人以上の現役軍人とその家族が無料入館したこと、科学館がシニア団体の積極的集客を行っていること等が分かった。 2.ニュージーランドの現地調査と文献資料収集を行った。(1)2014年12月25日~2015年1月5日、オークランド、ウェリントン、クライストチャーチのミュージアムの実地調査を行った。(2)ウェリントン・シティ・ライブラリーにて文献収集を行った結果、ニュージーランドでは国公立館では入館無料、ただし財政上の制約から特別展や付加的プログラムは有料やむなしと考えていることが推測できた。これは(1)での観察結果と一致している。 3.アメリカ合衆国、ニュージーランド、英国の3ヵ国について、書籍からの調査対象館データ入力は完了し、公式HP掲載の入館料最新データとの照合作業を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)アメリカ合衆国・ニュージーランド・英国の入館料調査:アメリカ合衆国の入館料調査は2014年度末までで、462館分が完成した(2013年度310館、2014年度155館、うち重複3館)。またアメリカ合衆国については、ニューヨーク152館分及び『ロンリープラネット』掲載館140館分の書籍上のデータ入力は終わっているが、公式HPとの照合作業及び無料・割引制度の抽出が終わっていない。同様に、ニュージーランド268館、ロンドン181館、英国全土215館、湖水地方・スコットランド102館の書籍上のデータ入力は終わっているが、公式HPとの照合作業及び無料・割引制度の抽出が終わっていない。これらは、膨大な手間と時間を要する作業であり、計画段階での作業量の予想に失敗していたこと、また研究代表者本人の作業時間が充分に確保できなかったことが作業遅延の原因である。 (2)公共図書館無料原則、公教育無料原則、ユネスコ勧告の成立経緯に関する文献資料の収集と検討:米国の公共図書館の理念と実態に関しては、所属大学の短期在外研究「アメリカ合衆国におけるミュージアム無料入館の実態と支える仕組みに関する調査」(2014年8月5日~30日)を利用して、シアトル中央公共図書館で文献資料を収集した他、シアトル図書館によるアウトリーチプログラムの参与観察を行った。しかし、公教育無料原則、ユネスコ勧告の成立経緯に関する文献収集には着手できなかった。 (3)ニュージーランドの公的部門改革と国立館有料化検討の際の議論の調査:ニュージーランド3都市での主要国公立博物館での参与観察及びウェリントン・シティ・ライブラリーでの文献収集は予定通り行えた。日本国内での公的部門改革関連の文献収集には着手できなかった。 (2)(3)ともに文献収集が遅れた理由は、研究時間が予定通りには確保できなかったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)2015年度は、アメリカ合衆国・ニュージーランド・英国の入館料調査を続行する。日本語書籍からの調査対象館の入力はほぼ済んでいるため、公式HPからの最新情報の書き出しを進め、また無料・割引制度の抽出を行う。 (2)「ニュージーランドの公的部門改革と国立館有料化検討の際の議論の調査」に関しては、収集した文献の読解・分析を進める。 (3)「英国の政権交代に伴う博物館政策の変遷と文化財返還請求問題の検討」は当初の計画通り、2015年度に現地調査を行う。この結果のニュージーランドとの比較は2016年度に行う。 (4)日本の入館料調査については、現在、北海道の博物館の公式HPからの入力が終わっている。2015年度中に東北以南の公式HPからの基礎データ入力を終える。データ分析は2016年度に行う。 (5)以上を踏まえ、2016年度には、日・米・英・ニュージーランド4か国の博物館入館料の比較を行い、各国の無料・割引制度をまとめるとともに、入館料の考え方(理念)とその背景についての比較考察を行う。これらの結果を踏まえ、日本で無料制度・優遇措置を拡大することの是非を検討するとともに、入館料収入を補完しうる寄附金獲得等の代替策について検討する。また、図書館カードを用いたミュージアム無料入館制度や、高齢者をターゲットとした福祉的取組や互恵的取組等、本研究を通じて新たに発見した先進的事例についての調査・検討を行い、入館料という切り口から見た博物館の公共性についての考察を行う。
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Research Products
(4 results)