2015 Fiscal Year Research-status Report
入館料問題を切り口とする博物館の公共性に関する研究
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25350406
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
瀧端 真理子 追手門学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70330165)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 博物館 / ミュージアム / 入館料 / アメリカ合衆国 / 寄附 / 無料 / 優遇措置 / ミュージアムパス |
Outline of Annual Research Achievements |
1.「日本の博物館はなぜ無料でないのか?―博物館法制定時までの議論を中心に―」を公表した。戦後の法制定過程では、博物館・図書館ともに無料入館に対しては本来の利用者でないと考えられた人々を排除することが意識されていた。図書館法には占領軍の強い意向で無料閲覧制が導入されたが、博物館法・図書館法ともに制定時に日本人の側から「無料制によってすべての人に教育の機会が与えられる」という考え方が育つには至らなかった。英語圏では「博物館の無償化=社会階層間の格差の是正」が念頭にあるが、日本では低所得者層に対して優遇策を設ける発想がなかったため、いまだに博物館を無料化する意味を認識できないものと考えられる。 2.アメリカ合衆国における入館料調査の途中経過をまとめた。(1)「アメリカ合衆国における博物館入館料調査からの考察―社会保障・福利厚生・集客・有料化の観点から―」を口頭発表した。経済的弱者への無料・割引制度発達の背景には6割の館の入館料が$10を超え、教育普及活動も高額料金という問題がある。高齢者対象特別メニュー、無料から有料への移行、料金変動制等、経営上の様々な試みを報告した。 (2)「アメリカ合衆国の博物館入館料に関する調査(3)」を公表した。米国の3地域(シカゴ、ボストン、南部)183館を調査し一覧表を作成、無料・割引制度の概要をまとめた。常時誰でも無料の館は23.0%で、残りの8割近くは有料館である。特定の日時の無料入館、不利益を被っている子どもを対象にした優遇制度は豊富に存在する。地域の文化機関、医療機関、営利/非営利組織と結び付きながら事業展開されていることが分かった。 (3)「図書館カードを用いたミュージアム無料入館制度の動向」を口頭発表した。公共図書館が地域のミュージアムと連携して無料入館パス(ミュージアムパス)を発行する仕組みとその課題について報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)アメリカ合衆国・ニュージーランド・英国の入館料調査:アメリカ各地の入館料データは、全642館分の公式HPデータ入力を終え、分析も含めて一覧表の公表を行った(2013年度310館、2014年度155館、2015年度183館、うち重複館6館)が、ニューヨーク152館分が未整理・未公表である。ニュージーランド268館、ロンドン181館、英国全土215館、湖水地方・スコットランド102館、アイルランド35館の書籍上のデータ入力は終わっているが、公式HPデータとの照合作業及び無料・割引制度の抽出、分析、執筆作業が終わっていない。これらは膨大な手間と時間を要する作業であり、計画段階での作業量の予想に失敗していたことと、研究代表者本人の作業時間の確保が困難なことが遅延の理由である。(2)現地調査及び文献収集とその分析:2015年度は、学内研究費にてロンドン及びオックスフォードで現地調査を行なったが、連続した出張日数を確保することが難しく、また渡航前の文献所蔵調査にかける時間が不足したため、4館での参与観察は出来たものの、現地での文献収集ができなかった。(3)日本の入館料調査:全国博物館総覧所収の全データ4099館分の入力と公式HPからの入館料入力は済んでいるが、分析を加えた公表を行うには至っていない。日本の入館料を巡る博物館法制定時までの議論については、図書館法制定時の議論も含め論文化し、公表することが出来た。後者は予定では2016年度に行う予定であったが、これまでの蓄積もあり前倒しで論文化できた。しかし、前者は(1)同様、研究代表者本人の作業時間の確保が困難なことが遅延の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度が本研究課題の最終年度であるため、基礎的なデータ入力が終わっているアメリカ合衆国のニューヨーク152館、ニュージーランド268館、英国498館の各入館料及び無料・割引制度の一覧表を完成させ、分析と合わせた公表を目指す。ただし、分量が膨大なため、(1)ニューヨークを完成させることでアメリカ合衆国の調査を完結させる、(2)日本の4099館分の一覧表を完成させ分析と合わせて公表する、(3)ニュージーランド、英国の一覧表の完成と分析の今年度中の発表は時間的に困難な可能性もあるが、基礎データの入力は終えているため、公表に向けて努力するが、間に合わなかった場合は2017年度以降、速やかに公表する。(4)以上の作業を通じ、アメリカ合衆国、ニュージーランド、英国、日本4ヵ国の比較検討を行い、本研究を通じて発見した様々な制度や取り組み(ミュージアム・パス、高齢者を対象とした集客戦略、季節や時間による料金変動制、福祉制度と密接に結び付いた無料・割引制度、無料と有料コーナーの分け方等)の整理、比較を行うことで、入館料という切り口から見た博物館の公共性についての考察を行う。
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Causes of Carryover |
4,947円の残額があることに、全く気付かなかったため。仮に気付いたとしても、予算消化のために無理に年度内に端数の金額を使う必要はないと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データ整理の謝金、または消耗品の購入費用の一部に、前年度残額は充てる予定である。
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