2013 Fiscal Year Research-status Report
博物館展示における「ことば」の役割に関する研究-情報量基準化の試み-
Project/Area Number |
25350410
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
広谷 浩子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 専門学芸員 (10205099)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 ゆき 神奈川県立生命の星・地球博物館, 企画情報部, 主任学芸員 (70342946)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 博物館展示 / 博物館教育 / 来館者調査 / 観覧行動 / 情報基準 / 展示施設 |
Research Abstract |
本研究は1.展示の成り立ちと受け止め方を表わす方法の確立、2.展示の企画意図を伝えるための情報基準(ICE)の設定、という2段階の調査から、博物館の展示を教育的視点から評価することを目的とする。25年度は第1の段階の研究として、具体的調査項目を、(1)展示の成り立ち把握、(2)来館者による展示評価、(3)他館の展示比較のための準備、の3つに設定し、(1)と(2)について重点的に調査を行なった。 (1)展示の成り立ち把握:神奈川県立生命の星・地球博物館(以下地球博物館と記す)と神奈川県シルク博物館(横浜市)の展示をとりあげ、解説板の字数や論理構造、配置などから明らかになる展示の情報量を記録した。これらの結果をもとにして、展示調査の標準的方法と記録様式について現在整理中である。さらに、湘南台文化センターこども館(藤沢市)で、夏の企画展の立案から完成までを追跡調査して、展示の全作業を企画者による情報伝達という観点から記録した。 (2)来館者による展示評価:「来館者の観覧行動調査」、「観覧後の理解度テスト」、「展示の人気投票」の3つの調査を行なった。観覧行動調査は地球博物館とシルク博物館で行ない、理解度テストは大学生と小学生を対象に地球博物館の展示観覧後に抜き打ちで行なった。結果は以下の通りである。展示室で来館者の注目を集めるのは、①標本や造作物などの展示物、②展示物そのものの説明ラベル、③展示解説板の順であった。解説板にある新奇な情報は、観覧時に読まれること自体が非常に少なく、読まれてもよく理解されていないことも明らかになった。第3の調査「展示の人気投票」は、同じテーマで文字情報量の異なる展示を作り評価を求める試みで、現在調査を継続中である。次年度以降の調査の足掛かりにものと考えている。 (3)他館の展示比較のための準備:25年度は、県内施設で予備的調査を行なうにとどまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初設定した調査項目のうち、(3)については十分な調査を行なえなかった。項目(1)展示の成り立ち把握が、当初予想していた以上に難しく、時間を要したためである。展示の文字情報量の把握も、論理構造の記録も、全く初めての調査であったため、複数の調査方法を試行し、研究メンバーで話し合いながら、調査を進めてきた。予想以上に複雑で時間のかかる作業となった。しかし、この項目は研究全体の根幹となる非常に大切な調査なので、十分な時間をかけて内容を検討しながら続けていきたいと考えている。 一方、項目(2)来館者による展示評価については、当初想定した行動観察・理解度テストだけでなく、来館者による展示の人気投票などの新しい調査も行なうことができた。これらの結果を整理して、次の段階の研究に進みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、調査項目(1)に時間を要したため、当初予定していたような多数回の本格的調査や、他館の展示比較のための準備視察などを行なうことができなかった。展示の情報量を把握するための方法を確立するという研究の基本事項について、十分な成果が得られなかったことは、今後の研究遂行に対し重大な問題である。これを解決して、研究を推進するために、以下のような方策をとりたい。 1.研究の進め方をより細かくモニターできるような体制をつくる。研究期間を半年ごとに区切って、目標を定める。半年ごとに達成度を測定し、その都度見直しをしながら、研究を遂行したい。26年度の2つの期間ごとの調査項目と目標は、以下の通りとする。 26年度1期: 展示の成り立ち把握と展示観覧行動観察(地球博物館)。展示の成り立ちを調査記録する方法を決定すると共に、展示観覧行動との対応関係も調べる。 26年度2期:他館の展示比較調査の準備を行なう。予備調査をもとに、展示の情報量基準を試算する。 2.調査の効率を上げるための方法論を開発する。展示の成り立ち把握は、地球博物館の1つの展示コーナーに限定した調査をもとに行なう。できるだけ単純化した小規模展示で情報量把握をして、さらに展示意図との対応関係も解析する。いったん方法論が開発されれば、調査メンバーで分担し、複数の場所で展示を調査記録する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた他館への出張調査を予定通り行なうことができなかったため、半分程度しか執行できなかった。調査方法の確立に時間がかかっていたため、調査補助員を雇用しての本格的データ収集や来館者調査が立ち遅れている。そのため、賃金の執行と調査用印刷物の作成費用の執行が行なわれなかった。これらは、すべて、調査項目(1)展示の成り立ち把握が、予想以上に難航したことに、起因している。26年度以降の調査では、この項目の調査とデータ解析を最優先事項として行ない、調査方法論を確立する。その上で、研究分担者と共に他館での比較調査に着手したい。 26年度は、調査期間を2つに区切って、半年ごとの見直しを行ないながら調査を遂行する。1期では、地球博物館において、展示の成り立ち把握のための調査と来館者による観覧行動の観察を行なう。25年度に執行できなかった調査用印刷物の印刷や調査補助員の雇用などによって、本研究の基盤となる調査を完遂させる。 2期では、他館展示の比較調査を開始する。当初より訪問を予定していた博物館に加えて、小規模館・テーマ館も調査対象として、視察を行なう。その後、研究分担者と分担しながら本格調査をする。各自が2-3館程度を集中的に調査する。この結果をもとに、展示の情報量基準も試算し、調査の妥当性を再検討したい。
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