2013 Fiscal Year Research-status Report
長波長・小振幅の変形が卓越する海岸域の地殻変動に関する変動地形学的研究
Project/Area Number |
25350431
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
渡辺 満久 東洋大学, 社会学部, 教授 (30222409)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 海成段丘 / 活断層 / 断層変位地形 / 写真測量 / 断層モデル |
Research Abstract |
当初は、青森県下北半島~岩手県三陸海岸地域を主な調査対象地域とし、海成段丘の分布・断層変位地形を明らかにし、現地での測量調査も実施して、断層運動と地形生成との関連を検討する予定であった。しかし、これまでの研究を整理する都合上、現地調査は福井県小浜市周辺において実施した。また、測量に関しては、小型UAVと写真測量ソフトを用いた簡易地形計測が可能となってきたので、その有効性を確認した。 空中写真判読によって福井県小浜湾沿岸の海成段丘面の分布を明らかにし、現地調査によってそれらの分布高度を計測した。小浜湾の北岸には海成段丘面と思われるような平坦面は存在していない。西岸~南岸には2段程度の海成面が確認できた。被覆層の風化の程度や平坦面の保存程度から、低位のものがMIS 5eに形成された海成段丘面に対比できる。その旧汀線高度は、鋸崎や小浜湾南岸の東部で高く、西方に高度を減じている。小浜湾には大きな海底活断層があり、小浜市東方の熊川断層と連続している可能性が高い。いずれも左横ズレ活断層であるが、熊川断層では南西側の隆起も明瞭である。これらの情報をもとに断層モデルを設定して数値計算を行った結果、MIS 5eの海成段丘面高度分布をうまく説明することできることがわかった。 写真測量ソフト(Photoscan)を購入し、空中写真からでもDEMを作成することが可能であることを確認した。上記の小浜湾沿岸の研究においても活用し、学会発表などでその有効性を報告した。小型UAVにカメラを搭載して空中写真を撮影できれば、海岸部の地形解析を効率的に進めることができる。そのための試験運用を、神奈川県江ノ島海岸周辺において実施し、実用可能との結論を得た。2014年度以降の研究に活用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度には、空中写真やDEMを用いた地形解析と、詳細な現地調査による地形編年に基づき、海岸の変動地形と数値計算で再現された断層運動との関係を検討することあった。したがって、研究地域が変更になった以外は、非常に効率的に研究が進んでいると考えられる。関連地域においては、原子力施設の安全性に関わる重要なデータも得ることができた。また、広島大学からの分担金による、日本海溝周辺のアナグリフ画像解析も順調に進展しており、当初の目的であった、プレート境界付近の逆断層モデルの構築に関しても2014年度以降に画謡的な成果をあげることが可能であると判断できる。 写真測量ソフトとUAVの活用は、海岸部の変動地形の解析と定量的な把握を容易にしつつある。2013年度に実施したUAVによる空中写真撮影やソフトの活用技術をさらに向上させることによって、通常の調査ではデータの入手が困難な地域であっても、海岸の変動地形を的確に理解することが可能であろう。研究開始当初、これらの技術の活用については想定してなかったが、非常に強力なツールであるため、今後は研究の大きな進展をもたらすものと期待される。ただし、2013年度にはまだ確立できていない面もあり、2014年度以降にも試行錯誤を続ける必要がある。 なお、「青森県下北半島~岩手県三陸海岸地域」の調査に関しては、不十分のまま残してしまった。この点に関する達成度は低いものの、上記したように、新たな調査方法を確立しつつあるので、2014年度以降の調査で遅れを取り戻せると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
空中写真判読による隆起ベンチや海成段丘などの地形解析や、現地調査によるベンチ・海成段丘面高度の測量・地形編年にひつような試料の採取といった調査は、予定通り実施してゆく。旧汀線高度や隆起ベンチの高度測定は、既存の測量機器を用いて行うほか、UAVによる空中写真撮影と測量ソフトを活用してゆく予定である。そのために、GCP(Ground Control Point)の設定方法についての技術を身につける工夫が必要である。 日本海溝や相模トラフ・駿河トラフ・南海トラフ周辺のアナグリフ画像解析や、日本海東縁部の海底活断層に関する地形解析を進め、数値計算によって海底活断層の活動と海岸部の変動地形形成を関連付けることを試みてゆく。日本の沿岸地域の地震性隆起に関する基礎的なデータを集積できれば、日本列島の隆起に関わる具体的な議論が可能になるであろう。「緩慢に隆起してきた」と考えられてきた地域の観察事実は、「日本列島底上げ」といった推定の根拠にもなっている。本当にそのようなことが起こっているのか、起こっているとすれば、どの程度の速度なのか、といった問題に対しても、具体的に踏み込むことが可能となろう。 研究開始当初は音波探査の実施も想定していた。しかし現在、機器の不具合などがあるために、実施できるかどうか見通しを立てにくい状況である。浅海底とその地下のイメージングがどこまでできるか不透明であり、この点が今後の研究における問題となりそうである。しかし、UAVと測量ソフトの活用から得られるデータは、この点を埋めてしまうような画期的なものである。現地調査での活用を精力的に進め、日本列島の隆起に関わる基礎的かつ重要なデータの整備、今後の変動地形研究にとって重要となるスキルを集積したい。
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