2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25350492
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 健太郎 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (20554497)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
都司 嘉宣 公益財団法人深田地質研究所, その他部局等, 客員研究員 (30183479)
行谷 佑一 独立行政法人産業技術総合研究所, 活断層・火山研究部門, 主任研究員 (90466235)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 津波痕跡 / 歴史地震・津波 / 波源推定 / 推定精度 |
Research Abstract |
本研究では,津波事例の中で極めて多くの観測情報が得られている2011年東北地方太平洋沖地震津波を対象に,津波痕跡高分布と地殻変動量を用いた波源推定を行う場合にどのような規模偏差が生じるのか,またその偏差を最小にするための基準について検討を行った. 津波痕跡高と地殻変動量のみを用いて,グリッドサーチ法による波源推定手法を開発した.波源長と同程度の津波痕跡分布を用いて波源推定を行う場合,大きな滑りの領域はある程度一致する傾向にあるが,地殻変動の幅に関する拘束条件を加えないと沿岸域に大きな沈降が生じる可能性があることを示した.波源長に対して狭域な津波痕跡分布では,波源の滑り域は離散的となり,地震学的に解釈が困難な波源となる.波源長と同等の津波痕跡分布を用い,かつ,その長さの5%以下の間隔で痕跡情報を得られ,地殻変動の幅を拘束することができる場合に,津波波源としての地震モーメントは観測値に近づき,地殻変動の拘束条件を入れることでさらに地震モーメントは観測値に近づく.一方,波源長に対して狭域での津波痕跡分布を用いる場合には,地殻変動の拘束を加えても津波波源としての地震モーメントは観測値からの乖離が大きくなる. 水理学に基づいたエネルギー保存則の観点から,沿岸津波高と遡上高の関係性を明らかにした.遡上にともなうエネルギー損失係数を遡上距離と沿岸の津波浸水深の関数として取り扱う方法を提案することができた.津波遡上高を沿岸津波浸水高に補正する手法を波源推定に適用すると,波源における大滑り領域がより観測値に近くなり,より精緻な波源推定が可能となった. 基礎データ収集として,南海トラフ巨大地震である1707年宝永地震の津波痕跡調査,庄内沖で発生した1833年天保地震に関する津波痕跡調査を実施し,波源推定に関する基礎データの収集を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,現代の地震観測網下で得られる観測情報に基づいた地震規模と,情報が限定的な津波痕跡高から得られる地震規模の偏差について,定量的な知見を与えるべく,以下の4つの研究項目として,研究項目①:エネルギー保存則に基づいた陸上津波痕跡高から沿岸津波高への換算手法の開発,研究項目②:家屋の被害関数を用いた津波痕跡高の推定法に関する検討,研究項目③:津波痕跡高を用いた地震モデルの統計学に基づいた逆解析手法の開発,研究項目④:近年に発生した地震を対象とした津波痕跡高を用いた地震規模の幅の評価,として検討を行う計画である. H25年度の計画では,研究項目①と②を重点的に行う予定であったが,実際に着手・実施した項目は①,③と④の一部となった.理由としては,2011年東北地方太平洋沖地震津波の痕跡情報が豊富にあったことにより,①,③と④の一部についてはすぐに着手できたからである.①については,成果で述べた通り,水理学に基づいたエネルギー保存則の観点から,沿岸津波高と遡上高の関係性を定量的に示し,遡上にともなうエネルギー損失係数を遡上距離と沿岸の津波浸水深の関数として取り扱う方法を提案することができた.この方法により,計算負荷が比較的高い非線形の数値解析を行うことなく,波源推定を行うことが可能となった.検討項目①としては,ほぼ達成できたと判断しているが,③と④についてはすべて解決できた訳ではなく,津波痕跡を用いて波源推定する場合の波源の最適な小断層分割数に関する検討を引き続き検討する必要がある. 歴史時代の津波被害情報調査については,1707年宝永南海地震津波と1833年天保庄内沖地震津波に関する津波痕跡高に関する現地調査を実施することができたが,家屋流出率に関する検討はまだ実施していない.家屋被害状況から津波浸水深を評価する方法の構築が急務といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として,研究項目②の家屋の被害関数を用いた津波痕跡高の推定法に関する検討を重点的に実施する.これまでに1707年宝永南海地震,1854年安政南海地震,1946年昭和南海地震の津波被害に関する津波痕跡・被害データについては史料レベルで収集済みである.徳島県・高知県沿岸域における地域毎の津波被害に関する情報を精緻に抽出し,現地調査を重点的に実施し,地形特性や現地集落位置などの詳細を調べる.これら史料調査・現地調査によって得れる情報から津波被害関数に関わる影響因子に関する検討を行う.これらの検討に基づいて,家屋被害に関する被害関数の構築を行う. 研究項目③について,波源推定を行うための逆解析手法として,H25年度ではグリッドサーチ法を適用し,安定して波源推定を行うことができることを確認したが,膨大な計算量となるため,計算効率がやや劣る.そのため,遺伝的アルゴリズムやモンテカルロシミュレーションなどを導入して,より計算効率のよい波源推定手法を検討する.また,痕跡点数の密度や小断層の分割数に関する感度分析を行い,主として津波痕跡高から波源推定を行う場合に,どの程度分解能の高い波源推定を行う事ができるのか,2011年東北地方太平洋沖地震を対象として実施する. 検討項目④について,検討項目②で得られた津波痕跡・被害データを用いて,南海トラフのプレート境界型巨大地震のうち,過去300年に発生した地震(1707年宝永,1854年安政,1946年昭和)に適用し,それぞれの波源推定を行う.一方,1833年天保庄内沖地震津波のように,プレート境界面の詳細がわかっていない歴史地震津波に関しても検討する必要があるため,断層面を仮定しない方法による波源推定手法についても検討を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品として,調査用の測量機器としてトータルステーション一式の購入費予算を800,000円として計上していたが,実際の購入額は730,800円(ペンタックス製TS V-460C:693,000円,三脚:37,800円)であった.当該製品は,当初予定していた製品(ペンタックス社製V-270C)より測距範囲も長く,測定精度も高く,かつ実売価格も安価であった.また,2011年東北地方太平洋沖地震津波を中心に波源推定に関する検討を進めたために,調査旅費に若干の差額が生じた. H25年度に生じた繰り越し額については,H26年度に歴史地震津波に関する調査における調査対象地域を当初計画より増やし,より高密度な調査を行えるよう,有効に活用する.
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