2013 Fiscal Year Research-status Report
豪雨災害の経験・教訓の有効活用を可能にする災害履歴検索支援ツールの開発
Project/Area Number |
25350507
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西山 浩司 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20264070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塚原 健一 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90404003)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 気象災害 / 豪雨 / パターン認識 / 自己組織化マップ / 合成レーダー / 解析雨量 |
Research Abstract |
暖候期の九州列島を対象にして,自己組織化マップ(パターン認識手法)を適用して,30年間(1979年~2008年)の気象場(風,水蒸気量,気温などの空間分布で表現)のパターン認識を実施した.そして,30年間に出現したパターンの中で,どのような気象場が,九州地方に豪雨を引き起こしてきたかを定量的に評価した.その結果,豪雨年は,4つのパターン(湿舌,梅雨前線,小低気圧を伴った前線,台風)のいずれかの要因で豪雨が発生していることがわかった.その中で,鹿児島県で甚大な災害を引き起こした1993年は全ての豪雨パターンが出現した.また,2006年は,九州中部に前線が停滞したことで豪雨頻度が大きくなった.次に,前線停滞パターンを30年間の時系列で見ると,その変動に目立った特徴は認められなかったが,豪雨頻度の時系列で見ると,2006年と2007年に豪雨頻度のピークが顕著であった.即ち,前線が停滞しても豪雨にならないケースが多く存在するが,降水系の停滞が発生するような場合には豪雨を引き起こす可能性があることを示している. 次に,豪雨を引き起こす特徴を視覚的に捉えるために,豪雨を伴った合成レーダーと解析雨量の特徴について調べた.萩市須佐の豪雨事例(2013年7月28日)を対象に,その特徴を見ると,1)豪雨発生の6時間前から須佐に近接する地域で豪雨域が停滞していた.また,2)強いエコーが風上から風下に向かって煙のように流れる形態(バックビルディング降水系)も確認することができた.以上を踏まえると,解析雨量・レーダー画像などを用いて降水状況を把握し,豪雨発生を察知することが重要である.その際,①自身の真上の降水状況だけを見るのではなく,周辺数十キロの範囲で広域的に降水を確認すること,②強い降水分布が長時間,周辺地域に停滞していないか確認することが極めて重要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)研究目的を達成するための第一ステップとして,暖候期の九州列島を対象にして,30年間の気象場(風,水蒸気量,気温などの空間分布で構成)のパターン認識(自己組織化マップの適用)を実施する.その際,どの領域で,どのような気象変数を利用すると暖候期の九州地方の気象場を適切に表現できるかについて検討した.具体的には,梅雨前線,低気圧,台風,太平洋高気圧周辺部の気象状況をパターンの中に適切に表現できるようにした.さらに,各々のパターンに対して,豪雨事例を付与した.以上の作業で,気象場と豪雨事例の対応関係を明らかにすることができた. (2)気象場のパターンに対応する豪雨事例に含まれる様々な履歴を付与する作業を行った.最初に,沖縄を除く九州各県を対象にして,2006年以降の豪雨事例に対応する被害額,死者・行方不明者,床上・床上浸水件数,家屋被害件数など集計した.次に,解析雨量データを用いて,豪雨事例ごとに1時間雨量,3時間雨量,6時間雨量を取りまとめた. (3)災害教訓として有用な情報として,過去に起こった豪雨事例の雨量の特徴,被害状況の件数を抽出することが重要であるが,豪雨発生に対応する警報発令状況,避難勧告・指示の状況,具体的な被害状況を時系列にまとめた情報も極めて重要である.具体的に,甚大な災害に見舞われた萩市須佐の豪雨事例(2013年7月28日)を対象にして,災害履歴・気象情報履歴の時系列情報を取りまとめた. 以上,3つの研究工程を実施し,26年度に実施する作業の基本工程を25年度中に確立した.従って,25年度の研究計画は概ね達成できたと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)雨量以外の気象履歴(合成レーダーと解析雨量)を気象場パターンに付与する作業を実施する.まず,豪雨事例ごとに合成レーダーと解析雨量に見られる特徴を明らかにする.具体的には,豪雨事例別に,停滞した降水系(バックビルディング型など)が合成レーダーと解析雨量に捉えられているかについて確認する.これらの特徴は豪雨災害になるかどうかの手掛かりになるので,気象場パターンに付与する. (2)豪雨事例に対する災害履歴(被害状況,被害額,災害対応状況など)を気象パターンに付与する作業を実施する.その基となる情報源として,①災害のインパクトを知ることができる新聞データベース,②災害をもたらした気象事例(気象庁),デジタル台風(国立情報学研究所),災害情報(消防庁)等の既存データベース,③国土交通省,内閣府などの国の機関,各自治体,学会の調査報告の文献,④自治体の防災対策の記録(警報発令に伴う避難勧告・指示の時系列的特徴)や水害統計資料などを利用する. 以上の一連の作業で,豪雨事例に対する気象学的な特徴(雨量分布の停滞など)だけでなく,実際の被害状況,災害対応状況,豪雨災害の規模を数値化した被害額を示すことで,過去の気象場パターンに対して,どのような気象状況の下で,どのような豪雨が発生して,どのような災害が起こり,どのように自治体が対応したのかについての一連の履歴を抽出できるようになる.このようなシステムが構築できれば,自治体による今後の災害対応のヒントを提供できるようになる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
過去の気象データを25年度中に購入する予定であったが,25年度の観測データが26年度中に公開されることから,まとめて26年度に購入することにした.また,旅費に関しては,25年度中に研究課題に関連する国際会議がなかったので26年度に開催される国際会議に充てることにした.その他,大学院生の災害履歴のとりまとめ作業を25年度に実施しなかったため謝金の支出はなかった.そのため,26年度にその作業の対する謝金を計上することになった.パソコン購入に関しても,25年度の謝金に伴う作業に合わせて購入する予定であったが,作業が26年度にまとめて実施することになったので,それに合わせて購入することにした. 25年度に構築した気象場パターンに対して,26年度に気象履歴と災害履歴を付与する作業を実施する.その作業に対する謝金を計上し(大学院生2名分),その作業用にPCを購入する.また,25年度に得られた成果発表のために,国内学会,国際会議(延べ2名)への参加費用を計上する.その他,過去の気象データを25年度に購入する予定であったが,25年度に観測されたデータの公開が26年度になることから,26年度中に過去データを含めて,まとめて購入することにした.最後に,論文を26年度に投稿するため,年度中に掲載が決定する場合には,論文掲載料を計上する.
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Research Products
(2 results)