2014 Fiscal Year Research-status Report
豪雨災害の経験・教訓の有効活用を可能にする災害履歴検索支援ツールの開発
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25350507
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西山 浩司 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20264070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塚原 健一 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90404003)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 気象災害 / 豪雨 / 土石流 / 災害検索 / 自己組織化マップ / 気象レーダー / 解析雨量 / 避難行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年8月20日広島市で発生した豪雨で,安佐南区・北区で大規模な土石流が発生し,死者74名,負傷者44名の人的被害,建物損壊など深刻な災害となったことを受け,26年度の研究は,広島市の災害に着目して,1) 自治体災害対応,住民の避難行動,今後の課題(広島市がまとめた情報伝達,自治体の役割等)の情報の収集を行った.また,広島市周辺地域で発生した最近の災害以外に,戦国から明治・大正年間・昭和初期に起こった古い時代の災害豪雨についての情報を旧自治体の郷土資料を基に調べた.最後に,住民の早期察知と自治体の迅速な災害対応を目指した気象レーダー情報の有効活用の研究を行った. 多くの資料を収集した結果,避難勧告の遅れも指摘されているが,広島市の豪雨発生が夜中であったので自治体の災害対応が非常に難しい状況であったことがわかった.広島市は平野が少なく,土石流危険区域になっている山麓に多くの人口を抱えていることから,地域住民,自治体の災害対応能力の向上が大きな課題であることがわかる.次に,過去に遡って広島市周辺地域の災害を調べた結果,主なもので1999年6月29日広島市佐伯区,1945年呉地区(枕崎台風),1924年広島市周辺で土石流に見舞われている.また,戦国時代の山津波の記述があり,最近の土石流発生地域に近い地域であったこともわかった.最後に,豪雨発生を早期認識するための気象レーダーのコンテンツについて調べた結果,レーダー積算雨量を使うことによって,豪雨がどこに集中しているのか視覚的に理解しやすいことがわかった. 上記に示した過去の履歴が系統的にデータベースに記録されていれば,今後,広島市で豪雨発生の可能性が診断された場合,その履歴を防災対応に有効に活用できると考えられる.また,レーダー積算雨量による豪雨域の特定が視覚的に容易であることから,豪雨の早期察知に有効であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)暖候期の九州列島の南西側に拡がる気象場(風,水蒸気量,気温などの空間分布で構成,30年間のデータ)のパターン認識(自己組織化マップの適用)を実施した.その結果,梅雨前線,低気圧,台風,太平洋高気圧周辺部の気象状況をパターンの中に適切に表現できるようにした.さらに,各々のパターンに対して,豪雨事例及び雨量を付与した.以上の作業で,気象場と豪雨事例の対応関係を明らかにすることができた.このことで,新しい気象場の入力に対して,地方レベルで豪雨が発生する可能性があるかどうかの診断が可能となった. 2)地域住民や防災担当者が豪雨を察知する際,10分ごとの気象レーダーでは雨量が集中して豪雨になるかどうか判断しにくいので, 1時間及び3時間積算雨量(レーダー雨量)のコンテンツを10分おきに作成した.その結果,多くの豪雨事例で雨量が局地的に集中する状況を視覚的かつ明瞭に把握することが可能であることがわかった.実際に災害が起こる数時間前から雨量集中が認められること事例もあった.このような現況判断と前述の豪雨診断を組み合わせることで早期の豪雨察知が可能になることが期待できる. 3)災害教訓として有用な情報として,過去に起こった豪雨事例の雨量の特徴,被害状況の件数を抽出することが重要であるが,豪雨発生に対応する警報発令状況,避難勧告・指示の状況,具体的な被害状況を時系列にまとめた情報も極めて重要である.具体的に,山口県防府市の豪雨事例(2009年7月21日),広島県庄原市の豪雨事例(2010年7月16日),九州北部豪雨(2012年7月),山口県萩市須佐の豪雨事例(2013年7月28日),広島市安佐南区の豪事事例(2014年8月20日)を対象にして,災害履歴・気象情報履歴の時系列情報を取りまとめた.
以上からこれまでの研究計画は概ね達成できていると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
1)雨量以外の気象履歴を気象場パターンに付与する作業を実施する.豪雨事例については深刻な災害をもたらした事例を対象にして,レーダー雨量,レーダー積算雨量,解析雨量に見られる特徴を明らかにする.具体的には,豪雨事例別に,停滞した降水系の発生に伴い,合成レーダー,レーダー積算雨量,解析雨量の分布に見られる豪雨の視覚的な特徴について確認する.これらの特徴をまとめておくことによって,豪雨が発生する可能性があると診断した場合,その診断パターンで具体的にどのような特徴の豪雨が過去に発生したのか知ることができる. 2)深刻な災害をもたらした事例を対象にして,災害履歴を気象パターンに付与する作業を実施する.その情報源として,①災害のインパクトを知ることができるインターネット・新聞の情報,②災害情報を記録した既存データベース,③国の機関,各自治体,学会の調査報告の文献,④自治体の災害対応の記録などを利用する. 3)豪雨災害に関して言えば,気象データが整備されてから30年程度の記録が多く,インターネット普及後の記録が著しく増加する.しかし,50年,100年に1回程度の豪雨の記録を取得するためには古い情報が必要となる.そこで,近年人的被害が多い土石流災害に着目し,広島県,山口県を対象にして,各地の図書館・国立国会図書館に所蔵されている旧自治体の郷土資料から土石流災害記録を抽出する.この情報をまとめることは地域の災害の歴史を知る上で極めて重要である.
以上の一連の作業で,過去の気象状況に対して,気象場パターンを知ることができる.そして,そのパターンに対して,気象状況の特徴,豪雨の特徴,災害の特徴,自治体の対応状況,住民の避難行動の様子などの一連の履歴を抽出できるようになる.このようなシステムが構築できれば,自治体による今後の災害対応のヒントを提供できるようになることが期待される.
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Causes of Carryover |
昨年,8月20日広島市安佐南区・北区で発生した土石流災害で深刻な人的被害を引き起こした.そのことから,その豪雨事例を過去災害履歴のモデルケースと位置付け,本研究では,土石流災害を引き起こしやすい環境が揃っている広島県と山口県を対象にして過去の災害を検索することになった.そのために,27年度,旧自治体の郷土資料が置かれている現地の図書館と国立国会図書館(東京都)への旅費(複数回)を計上することにした.また,大学院生の災害履歴のとりまとめ作業が26年度少なかったことから,その分を27年度に計上することになった.その他,26年度に論文掲載料が必要なかったことから,27年度に計上するにした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費関係では,研究発表のため,海外の国際会議(IAHR World Congress in The Hagueなど),国内の学会(水文・水資源学会と自然災害科学会)の参加を予定している.その参加費と旅費を計上する.また,戦国時代から昭和初期にかけて発生した広島県と山口県の土石流災害を検索するため,現地の図書館または国立国会図書館(東京都)への旅費を計上する. その他物品や謝金等では,平成27年の気象データを28年1月頃に購入する.また,インターネット上に戦国時代から現在までの起こった土石流災害の詳細をまとめたサイトを作成するので,その作業用のPCを購入する.さらに,深刻な災害を引き起こした豪雨事例を対象にして,気象履歴と災害履歴を付与する作業を実施する.その作業に対する謝金を計上する.その他,27年度中に論文の掲載が決定する場合には,論文掲載料を計上する.
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Research Products
(2 results)