2013 Fiscal Year Research-status Report
ナノ秒電気パルスが癌細胞に誘起する新規ストレス反応を利用した新しい癌治療法の確立
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25350533
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
諸冨 桂子 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 研究支援推進員 (80639435)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 癌治療 / ナノ秒電気パルス / 細胞死 / アポトーシス / ネクローシス |
Research Abstract |
一千万分の一秒というきわめて短い時間に限局して強い電気的な力を作用させる技術であるナノ秒電気パルスは、熱を発生せずに強いインパクトを与えることができるユニークな新技術である。私はナノ秒電気パルスがヒト癌細胞に対して新しいタイプの細胞ストレスとして作用して細胞死を誘発することを明らかにしてきた。本研究では、ナノ秒電気パルスを用いた新しい癌治療法の基盤を確立することを目的とし、平成25年度はナノ秒電気パルスで細胞死を誘導するための至適条件の確立と分子機構の解明を行った。まずHeLa S3やJurkatといった複数のヒト培養細胞を様々な条件のナノ秒電気パルスで処理し、生存率をMTT法によって解析した。その結果、細胞株毎にナノ秒電気パルスに対する感受性が異なることが判明し、ナノ秒電気パルスで細胞死を誘導するための至適条件を各々の細胞株について確定した。次にナノ秒電気パルスで誘発される細胞死の分子機構を解明するため、アポトーシスとネクローシスの分子マーカーをウェスタンブロット法等で解析した。これまで主に欧米で行われた研究からナノ秒電気パルスによる細胞死はアポトーシスであることが長らく推測されてきたが、実際にはアポトーシスが生じるのは一部の細胞株のみであり、多くの癌細胞ではネクローシスが起こるという新知見を得た。さらにナノ秒電気パルスによって誘導されるネクローシスには持続性のポリADPリボース形成が伴っていること、ポリADPリボース形成には細胞外カルシウムの存在が必須であることを明らかにした。これらの知見は、ナノ秒電気パルスによって惹起される細胞外カルシウムの流入が細胞死誘導に重要な役割を果たしていることを示しており、ナノ秒電気パルスによる細胞死誘導の分子機構に関する新しい重要な知見であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画は、ヒト培養細胞を用いてナノ秒電気パルスが細胞死を誘導するための至適条件を決定するとともに、細胞死の分子機構を解明することである。ナノ秒電気パルスの至適条件の決定については、複数の培養細胞株を用いて実験を実施し、細胞株毎に感受性の違いが存在することを明らかにするとともに、個々の細胞株において細胞死を誘導するためのナノ秒電気パルス条件を決定することができた。次に細胞死の分子機構の解明においては、ウェスタンブロット法をはじめとする分子生物学的手法により、細胞死に関する様々な分子マーカーの解析を実施した。本研究分野においては、ナノ秒電気パルスが誘導する細胞死はアポトーシスであるという通説が長らく信じられてきたが、これをくつがえす新たな知見が得られた。すなわち細胞株毎に異なる様式の細胞死機構が誘起されており、多くの細胞株ではアポトーシスではなくネクローシスが生じていることを明らかにした。さらに細胞内タンパク質の翻訳後修飾であるポリADPリボース形成がネクローシスに伴っており、それには細胞外カルシウムの存在が必須であることを明らかにした。これまでの研究から細胞外カルシウムがナノ秒電気パルス処理後に細胞内へ流入することが知られていたが、その生理的意義は不明であった。本研究ではナノ秒電気パルス誘導性のカルシウム動態の変動と細胞死を結びつける新知見を得たと言える。以上の理由から本年度の研究計画は達成されたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、平成26年度においては癌治療を念頭に置いた針型電極を用いて、培養系においてナノ秒電気パルスによる癌治療効果の検証を実施する。これまで用いてきた電極は2枚の平板電極が平行に位置するいわゆるキュベット型のものである。これを二本の針型電極におきかえ、腫瘍に直接穿刺もしくは腫瘍の両端に置くことで全体を一度で処理することを想定する。電極、素材、電極間隔などの組合せを変えたプロトタイプを複数作製すると共に、エレクトロポレーション等に用いられる既存の微小電極もテストする。細胞死誘導の効果検証においては、平成25年度の研究で利用した手法を活用するのに加えて、新たにライブイメージング法を導入することを検討する。最近、私の所属施設では、生体応答をリアルタイムで解析する最新のライブイメージング機器を導入した。この機器を活用してナノ秒電気パルスが惹起する生体応答を解析することは本研究にきわめて有効であるであると考えられるため、当初の研究計画を発展させ、ライブイメージングシステムを活用した解析も実施する。それに必要なシステム設置を行う。すなわちライブイメージングシステム中のマイクロマニピュレーターに電極を取り付け、顕微鏡ステージ上の試料にナノ秒電気パルスを印加するための発生装置、オシロスコープ、高電圧プローブと組み合わせる。平成25年度に利用した手法とライブイメージング法の併用で、針型電極による細胞死誘導の効果検証を実施する。
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Research Products
(2 results)