2014 Fiscal Year Research-status Report
認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する指輪療法の有効性の検証
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25350653
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Research Institution | Osaka Yukioka College of Health Science |
Principal Investigator |
横井 輝夫 大阪行岡医療大学, 医療学部理学療法学科, 教授 (00412247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡村 仁 広島大学, その他の研究科, 教授 (40311419)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 認知症 / アルツハイマー病 / BPSD / 非薬物療法 / 指輪療法 / 自尊心 / 女性性 / NPI |
Outline of Annual Research Achievements |
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD)に対する非薬物療法として回想法、音楽療法などが試みられている。しかし、効果は持続しないがシステマチックレビューの結論である。この結論は当然である。特に記憶障害を主症状とするアルツハイマー病者に、週に一度これらの療法を実施しても効果の持続は期待できない。研究目的は、女性認知症者の示すBPSDに対する指輪療法の効果を検証すること。歴史上、権力と愛の争奪の中で幾多の指輪伝説が生まれ、女性は指輪の輝きに魅了されてきた。女性を魅了してきた指輪をはめた手は、食事の時だけでなく、テーブルの前に座って他者と話している時も常に目に入る。さらに指輪は一度はめると介護者の手を必要とせず、指輪自体がその人の女性性を刺激し続ける。 対象は老人ホームに入居する5名の女性アルツハイマー病者である。研究デザインは、シングルケース実験法。効果性の評価には、認知症者の精神症候の指標であるNPIとBPSDの出現場面の介護者による記録を用いた。 その結果、指輪に強い関心を示した3名に効果が認められた。効果が認められたNPI項目は、事例Ⅰでは「興奮」「易怒性/不安定性」、事例Ⅱでは「興奮」「うつ」「易怒性/不安定性」、事例Ⅲでは「易怒性/不安定性」であった。そして指輪自体が、介護者などから「○○さん、綺麗ね」の言葉を引き出していた。 怒りは自尊心が傷つけられた時に生起する感情である。指輪と自己の身体が一体化してきた彼女らは、周りの人々から「○○さん、綺麗ね」と言われる度に、私が綺麗になっていると思い、自己概念に基づく自尊心が高まる。指輪が彼女らの自尊心を高め、「易怒性/不安定性」を軽減させた。 ヨーロッパを中心とした指輪文化は、近年ではアジア諸国にも拡大している。指輪の効果は世界中に広がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は、女性認知症者の示すBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD)に対する指輪療法の効果を検証することである。 平成25年度は研究代表者の転勤に伴い、研究協力施設の確保に難渋した。平成26年度研究協力施設が確保でき、平成27年度の予算を前倒しし、その年度内にデータを収集することができた。 対象は当初6老人ホームに入居し、BPSDがみられる女性認知症者9名であった。その内1名は認知症以外の基礎疾患を有し、もう1名は軽度認知障害(MCI)、残り2名は、指輪を売りつけられると思い、研究期間継続して指輪をはめなかった。その結果、対象者は4老人ホームに入居する5名となった。 当初の計画では、在宅者への介入も想定していたが実現しなかった。それは安全面への配慮を必要としたからである。施設入所者においては指輪をはめている間(朝9時から夜7時まで)、対象者が指輪を口に入れないか、無理に外そうとしないか、1人の対象者に対し1人が、離れたところから常に見守った。このような状況であるため、在宅者への介入は実現しなかった。しかし、施設入所者を対象とした今回の結果から、BPSDに対する指輪療法の効果は検証され、これまでの非薬物療法にはない指輪自体がもっている際立った力を見出した。その結果、有効な非薬物療法とは、認知症者の周りにいる人々が、意図せず、傷つきやすい認知症者の自尊心を高める関わりをしてしまう介入(つまり非薬物療法のターゲットは認知症者ではなく、周りの人々である)であることを提示できた。 現在、データ収集は終了し、論文化の最終段階である。今年5月末にjournal ‘American Journal of Alzheimer’s Disease and Other Dementias”に成果を投稿する。
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Strategy for Future Research Activity |
課題は残すが研究目的は達成できた。さらに今回の指輪療法を含み有効な非薬物療法とは、認知症者の周りにいる人々が、意図せず、傷つきやすい認知症者の自尊心を高める関わりをしてしまう介入(つまり非薬物療法のターゲットは認知症者ではなく、周りの人々である)であることを提示できたことは、指輪療法の効果の検証と並び、貴重な成果であった。 ヨーロッパを中心とした指輪文化は、近年ではアジア諸国にも拡大している。この指輪療法の効果は世界中に広がる可能性がある。今後、この探索的研究の成果(指輪療法の効果と非薬物療法のターゲットは認知症者ではなく、周りの人々であること)を世界中の研究者やケアに携わっている人々に知らせる。
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