2013 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム戦争のオーラル・ヒストリーと「戦争の記憶」に関する複合的研究
Project/Area Number |
25360006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20203284)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ベトナム / ベトナム戦争 / 戦争の記憶 / 地域研究 |
Research Abstract |
今年度は次の3か所において聞き取り調査を実施した。①カマウ省カマウ市(8月)、②トゥエンクアン省トゥエンクアン市(11月)、③ホーチミン市(12月)。①カマウ省はベトナム最南端の省であり、サイゴンから遠くサイゴン政権の影響が及びにくいということもあり、解放勢力が40年代後半から一貫して強い地盤を築いていた地方でああひとる。のちにベトナム共産党の最高指導者となるレ・ズアン、レ・ドゥック・ト、ファム・フンなども50年代なかばまで当地で活動していた。その足跡をたどることができた。②トゥエンクアン省はハノイの北西方向の山間部に位置する省で、45年以降に移住してきたキン族が多くおり、ここからディエンビエンフーの戦いに動員された人たちもいた。奇遇だったのは、75年4月30日に旧南ベトナム大統領官邸に一番最初に突入した戦車の乗員に聞き取り調査できたことである。③ホーチミン市では、他の場所のように退役軍人会に頼って聞き取り調査をすることができなかった。このことを見ても、ホーチミン市の退役軍人会がハノイ市の退役軍人会とは異なる位置づけがされていることがわかる。インタビューした人はいずれも解放勢力側で活動してきた人ばかりであるが、なかには今の共産党について堂々と批判する人もいて驚かされた。解放勢力側の人ちっても、南部の人は北部の人とはまた異なった複雑性を抱えていることが改めて認識させられた。 今年度に執筆した論考は、1972年のハノイのクリスマス爆撃の被災者、戦争捕虜だった人々、そしてクアンチ省退役軍人と元青年突撃隊隊員の戦争の記憶についてまとめた。前者2つは「戦争の記憶の社会化」といった観点から考察を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベトナム国内での聞き取り調査を年に2回予定しているが、その回数をこなすことができている。ただし調査地については、ベトナム側の事情もあり、必ずしもこちらが希望した通りの調査地とはなっていない。調査の報告の論考も、今年度は3本とまずまずの成果を収めていると思っている。しかし調査の回数に追いついておらず、1調査地に1本の論文というやり方を再検討する必要があるように思われる。また、「戦争の記憶」についての理論的学習やベトナム戦争史研究の先行研究の整理などをもっと精力的に進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も1年に最低2回のベトナム国内での聞き取り調査を実施していきたい。次年度は、ホーチミン市(2回目)、中部のビンディン省、北部のクアンニン省、中部高原での聞き取り調査を予定している。ホーチミン市では、南部の解放勢力側の多様で複雑な様相をさらに汲み取っていきたい。ビンディン省では韓国軍にまつわるベトナム人の記憶を探りたい。クアンニン省はベトナム戦争中はヴィンリンと並ぶ「特別区」であった。どのような特別区であったのかを解明したい。中部高原はベトナム戦争の主要な戦場の一つであったが、当地の少数民族の戦争との関わりについての調査を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
聞き取り調査の資料整理のために謝金を計上していたが、物品費と旅費が予定額をオーバーしたため、今年度の謝金の執行を見送ったため。 次年度は繰り越し分を含めて謝金等を執行していく予定。
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