2014 Fiscal Year Research-status Report
ウガンダ―ケニア国境地帯の政治的暴力と身体表現の関係
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25360015
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
波佐間 逸博 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (20547997)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 批判的医療人類学 / 癒し / 器官 / 記憶 / 東アフリカ牧畜社会 / 精神医学 / ヘルスケア / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ウガンダ北東部カーボン県のドドス社会において、住み込み調査によりヘルスケアシステムの解明を続けた。問題意識の中心に据えたのは、「暴力的な日常を生きる人びとの暴力や死への対応には、その社会のローカルな回復と生存へのメカニズムが表出している」という、社会精神医学者のダンカン・ペダーセン(Pedersen 2002)の指摘だった。調査の結果、戦争や拷問によって傷ついた人びとの対処は、さまざまな形をとることが分かった。より具体的には、その全体は、暴力的な復讐から、外部世界からのアクターによっておこなわれる心理療法や人道支援、さらには、外部社会が関心を持たなくなり、そのずっと後に、共同体がみずからを癒そうと試みる方法にいたるまで、多層的で多元的なかたちをとるのである。なかでも、人びとによって認識されている「社会的な暴力と関連する病」をめぐる牧畜民たち自身による実践は、先のペダーセンの指摘と密接に関連する。つまり、この病においては、(1)器官的な表象(「心臓 etau」や「血管 ekepu」)の中から、病者の紛争経験の苦悩や記憶を読み取る東アフリカ牧畜社会に見られる独自の認識論に則って、詳細な病因論とローカルな対処方法が構築され、(2)外部世界から関心が寄せられなくなった紛争後の社会が、その社会自身を治癒する根源的な試みを創出・実践し、(3)この「未来の方法を導き出す」文脈において、最も重要な問題として、抑圧者に対する抵抗が試みられていること、が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」の質的な達成度は、当初の計画以上に進展しているが、公刊をつうじての成果発信の数の面において遅れが見られる。すなわち、国際社会学会において「紛争と身体」のテーマで組織したセッションの成果出版は、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の社会学者ピラニ教授が編集を担い企画が進んでいるが、発行には至っていない。また、本研究と関連する論文が所収された「コミュニケーション実践学」の論集は、すべての原稿が出揃うまでにかなりの時間を要したことから、現在なお出版社(ナカニシヤ出版)と初稿を確認している段階にあって、発行には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
ケニアで実施予定のフィールドワークについては、急激に悪化している治安状況を見きわめ慎重に判断する必要がある。所属研究機関の安全情報などを参照し、万が一実施不可能との判断に至ったときには、ウガンダにおける現地調査によって、予定していた調査項目をクリアできるよう、研究をデザインしなおす必要がある。
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Causes of Carryover |
ケニア側での調査を予定していたが、治安状況の急激な悪化という予期せぬ問題が発生し、現地滞在が困難になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予期せぬ問題の解決には相当の時間を要することが予想されることから、新たな研究方式のもとでウガンダ国内での現地調査を実施する。
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