2013 Fiscal Year Research-status Report
文化資源としての手工芸―東南アジア大陸部のプラント・マテリアルをめぐる実態と展望
Project/Area Number |
25360016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
落合 雪野 鹿児島大学, 総合研究博物館, 准教授 (50347077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯島 明子 天理大学, 国際学部, 教授 (70299155)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | タイ系諸民族 / 物質文化 / 移住史 / 生態資源 / ハンディクラフト / 国際情報交換 / ラオス / タイ |
Research Abstract |
本研究では、東南アジア大陸部の手工芸のうち、タイ系諸族によって植物素材に由来して作られるモノ[プラント・マテリアル]をとりあげ、1) 地域の生態環境、2) 地域の社会関係、3) 製作者の生活実践、4)商品としての需要と流通の4点に着目しながら、その製作の実態を分析する。さらに、手工芸品とその製作技術、生態環境、社会関係の総体が地域の文化資源であることを明示し、その特性を「タイ文化圏」という地域像の中に位置づけて考察する。 研究の対象として、ラオス北部、ミャンマー東部、タイ北部のタイ系諸族による植物素材に由来する手工芸品である、織布と漆器をとりあげる。織布製作に関しては、ワタなどに着目し、生育中の植物から糸を経て布に至るまでの全工程を把握して、生態環境と生活実践との関連を探る。漆器製作に関しては、タケ工芸の延長上にある技術としてとらえ、シャン州地域からラーンナー地域への技術移転の歴史を視野に入れながら、タケとウルシという植物を利用した工芸の実態を記録する。 2013年度は、天理大学で第1回研究会を実施し、天理参考館の所蔵資料を熟覧した。また、以下の製作地調査を実施し、実証的なデータや資料を集積した。 織布に関して、①ミャンマー、シャン州で、エン人による綿布製作とアク人によるクズ属植物の繊維利用について、②ラオス、ルアンパバーン県でタイ・ダム人による綿布製作、ウドムサイ県でカム人によるクズ属植物利用について、③タイ、チェンマイ県でタイ・ユアン人による綿布製作について、それぞれ製作者への聞き取り、原料植物、中間素材、製品、用具の観察を行った。 漆器に関して、①ミャンマー、シャン州で、竹工芸と漆器に関する製作過程の参与観察、製作者および販売者へのインタビューを行った。②タイ、チェンマイ県で、チェンマイ大学社会科学研究所スタッフとの意見交換を行い、工芸関連の書籍資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における主たる着眼点4項目について、達成状況を以下のように点検し、おおむね順調に進展していると判断した。 1) 地域の生態環境(素材となる植物を採集・栽培するための植生や立地、資源管理、土地利用):タイ・ダム人やエン人による焼畑におけるワタの栽培慣行や、カム人による集落周辺域におけるクズ属植物の生育状況について、概要を把握した。タケの生育地を観察し、庭畑への移植によるローカルな資源管理の実態を明らかにした。 2) 地域の社会関係(移住による技術移転、分業体制を支える人的ネットワークと関係性):綿布や布団の製作に関するタイ系民族と非タイ系民族の関係について情報を得た。竹材に関与するチェントゥン周辺域のタイ・クーン人のネットワークに関して、詳細な聞き取りを実施した。 3) 製作者の生活実践(技術の継承にかかわる状況や意思、生業における労働配分、ライフヒストリー):エン人の綿布製作に関連して、ワタの栽培から手織りまでの年間の労働配分について概要を把握した。チェントゥンの漆器製造業者の親族関係やライフヒストリーについて詳細なデータを得た。 4) 商品としての需要と流通(国内や海外市場への拡散状況、取引における人的ネットワークと関係性):タイ・ユワン人業者による、ワタ在来品種を用いた綿布の海外市場への販売拡大とその国際的な評価について概要を把握した。ミャンマーにおける漆器の販売実態について、チェントゥンとヤンゴンで情報収集した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画2年目となる平成26年度には、以下の研究活動を実施して、データと資料の収集を継続する。また得られたデータや資料を検討し、手工芸品の製作技術、生態環境、社会関係に関するディスカッションを進める。 織布調査では、ミャンマー、シャン州で、綿布製作過程の参与観察、製作者や販売者へのインタビューを行う。ラオス、ルアンパバーン県とウドムサイ県で、原料植物の栽培や採集、紡績、機織りに関する参与観察とインタビューを行う。漆器調査では、ミャンマー、シャン州で、漆液の採集や加工、流通に関する参与観察とインタビューを行う。タイ、チェンマイ県の工房において、製作過程の参与観察、製作者や販売業者へのインタビューを行う。ラオス、ルアンパバーン県で製作技術の現状と技術移転に関する参与観察とインタビューを行う。さらに、資料調査では、鹿児島大学総合研究博物館に所蔵される植物資料や民族資料を観察し、比較検討する。第2回研究会では、平成26年度の調査結果を中間報告し、その分析にもとづいて平成27年度の計画を調整する。 本研究計画最終年度となる平成27年度には、製作地調査として、平成25年度と平成26年度の研究成果とその分析をもとに、補足のための製作地調査を、織布と漆器に関してそれぞれ10日間実施する。また、第3回研究会を開催して3年間の研究成果全体を俯瞰し、その詳細を検討したうえで、成果の公開(学術論文の執筆とワークショップの開催)にむけて準備をする。さらに、成果報告会として、鹿児島大学総合研究博物館での定例イベントの機会を活用し、ワークショップ形式のプレゼンテーションを開催し、一般市民に成果を公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
タイ、チェンマイ県で漆器に関する製作地調査の実施を計画していたが、入試など大学業務との兼ね合いで実施することができず、その分の旅費を繰り越した。 2014年度内にタイ、チェンマイ県で漆器に関する製作地調査を実施する予定である。
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Research Products
(4 results)