2013 Fiscal Year Research-status Report
中国東北部における韓国系独立運動関連史跡の観光地化に関する研究
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25360029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐々 充昭 立命館大学, 文学部, 教授 (50411137)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 朝鮮民族独立運動 / 抗日運動 / 延辺朝鮮族 / 観光地化 / 東北工程 / 青山里戦闘 / 尹東柱 / 高句麗・渤海 |
Research Abstract |
平成25年度は、主に中国の延辺朝鮮族自治州内にある抗日独立運動関連史跡と遼寧省・吉林省内にある高句麗・渤海関連史跡に関する調査を行った。朝鮮の抗日民族独立運動の中で最も激しい武装闘争が行われた地域が、かつて「間島」と呼ばれた豆満江以北の中朝国境付近地帯であった。この地は、現在、延辺朝鮮族自治州となっている。この地域は、白頭山(中国名は長白山)登山や世界遺産である高句麗遺蹟巡りが行える場所でもあり、同地にある韓国系の独立運動関連史跡が次々と観光地化されている。中国政府も、経済開発と地域振興のために、韓国人対象の重要な観光産業地である同地での史跡開発に対して許可を与えている。 本年度は特に青山里戦闘跡地と尹東柱生家について現地調査を行った。1920年10月に青山里(吉林省和龍県内)付近で展開された戦闘は、朝鮮独立軍が正規の日本軍に勝利した抗日独立運動史上最大の戦果を収めた戦闘と評価されている。2001年には韓国の光復会により同跡地に抗日大捷戦勝記念碑が建立された。今回の調査により、この記念碑の管理が粗雑化し、韓国人の観光コースから外れつつあることを確認した。また、植民地期に朝鮮語で詩を書いた抵抗詩人・尹東柱の生家については、地元の朝鮮族コミュニティーの支援を受けて大々的な施設整備が行われ、かつての大成学校内に設けられた尹東柱記念館とともに、韓国人ツアー旅行の一般巡回コースとなっていることを確認した。 一方、中国側は「東北工程」プロジェクト(2002~7年)を推進し、特に高句麗や渤海の歴史を中国史に編入しようとする動きを見せ、韓国側はこれに対して反発を強めている。今回は、延辺朝鮮族自治州内にある渤海遺跡、吉林省集安市の高句麗史跡群、遼寧省満族自治県内の高句麗遺跡(五女山城)の現地調査を通じて、中韓間の歴史(古代史)認識の差異が観光開発にどのような影響を及ぼしているのか考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、主に延辺朝鮮自治州内の朝鮮民族独立運動関連史跡と吉林省・遼寧省内の高句麗・渤海関連遺跡を中心に調査を行ったが、当初予定していた調査地をほぼすべて回ることができた。中国における現地調査の成果については、立命館大学人文科学研究所が主催する『グローバル化とアジアの観光研究会』において、「東アジアの歴史記憶とツーリズム-中国東北部における朝鮮民族独立運動関連史跡の保存をめぐって」というテーマで報告発表を行った。 また、現地調査と同時に文献調査も行った。今年度は特に、植民地期の1910年代に海外亡命した独立運動家・朴殷植の抗日独立運動に関する研究を行い、その成果を学術雑誌(『朝鮮学報』査読有)に発表した。朴殷植は、高句麗・渤海の領土が朝鮮民族の故土であるとする言説を精力的に流布した啓蒙思想家である。本研究を通じて、現在、中国の「東北工程」に対する韓国側の対抗言説となっている歴史認識が歴史的にどのように形成されたのか明らかにした。 また、当初の計画では平成27年度に行う予定であった、大連市にある安重根関連史跡である旅順監獄舎跡地の調査を行った。ここは現在、旅順日俄監獄旧址と呼ばれ、歴史記念博物館として整備されている。特に安重根が死刑を宣告された場所は、旅順日本関東法院旧址陳列館として、安重根関連の遺物や彼の東洋平和論などに関する展示がなされている。今回の調査を通じて、旅順日俄監獄旧址では安重根の義挙を称える形の展示がなされており、「中国と韓国は日本帝国主義の共通の被害者である」という歴史認識を顕彰するための場所となっており、このことは「東北工程」をめぐる中韓間の葛藤が深刻な高句麗・渤海の史跡地とは大きく異なる点であることを確認した。 以上のように、平成25年度においては、当初予定していた研究計画を遂行することができ、本研究は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、当初の計画通りに研究を遂行していく予定である。平成26年度は、中国黒龍江省内にある金佐鎮関連史跡に関する調査を行う。黒龍江省は吉林省に次ぐ朝鮮族集住地域であり、韓国系独立運動史跡の復元が積極的に進められている。その代表的なものとして、武闘派の独立運動家として知られた金佐鎮関連の史跡地があげられる。1999年に韓国で社団法人金佐鎮将軍記念事業会が発足したが、同事業会は金佐鎮将軍の活動と縁の深い黒龍江省海倫市を中心に、金佐鎮関連史跡の復元整備を積極的に推進している。平成26年度は、特に同地に設けられた韓中友誼公園や抗日武装闘争歴史館、さらには金佐鎮将軍が1927年に設立した小学校(現在は朝鮮族実験学校)などの調査を行う。 平成27年度は、中国内にある安重根関連史跡に関する調査を行う。当初の計画では平成27年度に行う予定であった、大連市にある安重根関連史跡の調査を今年度に行った。今年度に入り、日中関係および日韓関係が領土問題や歴史認識問題をめぐって極度に悪化した。2013年6月に韓国の朴槿恵大統領が訪中した際に、伊藤博文暗殺事件の現場であるハルビン駅に安重根の石碑建立を中国の習近平国家主席に提案した。このことなどが契機となり、2014年1月に中国のハルビン駅に安重根記念館が開館した。これらの動向を踏まえて、今年度は当初の研究計画を変更し、遼寧省地域を回った際に、安重根が収監・処刑された旅順日俄監獄旧址(大連市)を訪問して調査を行った。この場所にはまた、朝鮮を代表する抗日独立運動家たちが多数収監され獄死した場所でもあり、彼らの抗日運動を称えた国際志士展示館が設けられている。平成27年度に予定していたこれらの史跡地を今年度にすでに現地調査することができたために、平成27年度は、2014年にハルビン市に設けられた安重根義士記念館について集中的に調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は研究開始年度ということもあり、文献調査のための資料(中国語と韓国語を含む)を多数購入する予定であった。しかし、今年度は現地調査を優先させたために、資料の購入を当初予定していた通りには行うことができず、結果として物品費に差額が生じてしまった。 次年度において、今年度予定していて購入ができなかった文献調査のための資料(中国語と韓国語を含む)を購入する。また、次年度は中国黒龍江省の現地調査を行う予定であり、公共交通機関の利用可能状況を考慮すると、旅費として計上した予算を多少超える可能性も考えられる。その際は、旅費の一部として充当する予定である。
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