2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25360039
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
池田 忍 千葉大学, 文学部, 教授 (90272286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 明子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (30571070)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 工芸 / 手芸 / アイヌ文様 / アイヌ・アート / 先住民族 / 展示 / ジェンダー / 伝統の表象 |
Research Abstract |
本年度は計画段階で設定した二つの課題 ①「「伝統」解釈の再検討」 ②「展示の場・受容の文脈の検証」にかかわり、文献資料・聞き取り調査、展示見学を中心とするフィールドワークを実施し、3回の全体研究会を開催して討議・考察を深めた上で論文執筆をおこなった。 ①の課題に関しては、まず札幌・帯広調査を実施し、社団法人北海道アイヌ協会、サッポロピリカコタン、帯広百年記念館アイヌ民族文化情報資料センターリウカ、ハポネタイなどで、アイヌ手工芸の伝統継承にかかわる制度と実践の経緯と歴史的背景を明らかにすべく、資料収集、聞き取り調査を実施し、重要な知見を得た。また11月には小樽市総合博物館にてアイヌ工芸品展「ロシアが見たアイヌ文化」を見学、運河館と併せて工芸類、アイヌ風俗を描いた絵画資料の調査、資料収集をおこなった。また全期間を通じて、国内外のアイヌ文化に関する資料を収集する博物館等機関の所蔵品カタログ、展覧会カタログを収集し、近現代の制作者が参照する伝世品を中心にアイヌ文様の画像入力と整理を進め、文様の地域性と変遷に関する分析調査に着手した。 ②の課題に関しては、A.5月18・19日に日本民藝館にて「アイヌ工芸─祈りの文様」展、 B.8月25日に国立歴史民俗博物館 第四展示室(民俗)を中心にアイヌアート展示、C.2014年3月に国立新美術館にて「イメージの力―国立民族学博物館コレクションにさぐる」展の見学を実施した。Bでは企画・展示担当研究者の説明を受け、意見交換をおこなった。またすべての展示見学に、本科研の研究協力者、およびアイヌ民族の表現者や文化実践に関わるメンバーが参加、併せて研究会を開催して、伝統的アイヌ工芸、および現代のアイヌ・アートの展示の特色、各施設における観客の関心と展示内容との関係等について討議、検討を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画に従い、文献資料・聞き取り調査、展示見学を通じて、以下の知見を得て論文にまとめ公刊した。 まず「アイヌ・アート」という名称が登場するまでの歴史的な経緯、背景について、大枠で見通しを得ることができた。日本においては、西洋起源の「美術」という言葉と価値観が導入されると、周縁化された造形や表現活動は、「民藝」や「道」(書道・華道・茶道など)と呼ばれ、位置づけられていく。ところが「美術」が相対化される1990年代以降、これらの周縁化された造形や表現活動は時に「アート」と呼ばれ、その語りが変化してきた。アイヌの造形もまた、かつては「民族資料」「工芸」「民芸」と文脈に応じて呼び分けられてきたが、「美術」の相対化が進み、アイヌの人々自身の先住民族としての自覚に基づく創作が活性化する中で、「アイヌ・アート」という呼称が用いられるようになった。この呼称は、誕生までの歴史的経緯や今日の社会における使用の文脈を批判的に検討した上で用いる必要がある。(池田忍「アイヌの造形を語る「ことば」―その歴史から未来へ」2014) また、アイヌ文化の継承を支える制度面の整備は進んだが、課題も多く状況は厳しい。アイヌ工芸に限らず、広く日本国内、あるいは世界の「手工芸の歴史」の中に布置することによって見えてくる問題がある。特に女性の手仕事を安価な繊維産業労働者と無償の趣味の手芸制作者に分断することで、後者を美化し表象する眼差しが現代社会に存在するが、それはアイヌの手仕事への眼差しにも転化されていると考えられる。(山崎明子「「手芸の近代史」からみるアイヌの手仕事」2014) この他、アイヌの造形表現者の経験と文化発信の実践の歴史と実態、将来に向けた構想について調査、併せて伝世品を中心とするアイヌ文様の地域性と変遷に関する分析と考察を進め、計画に沿った所定の成果を上げた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き2つの課題、すなわち「「伝統」解釈の再検討」と「展示の場・受容の文脈の検証」を中心に、文献資料、聞き取り調査と、その成果の分析・考察、および成果発表をおこなう。本年度特に重視する調査は以下の通りである。 ①社団法人北海道アイヌ協会(旧北海道ウタリ協会、その各支部)、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構などが行ってきた講習会、指導者育成の講座開講、技術伝承のための複製助成などのカリキュラムや、テキストの調査。 ②現代の制作者への聞き取り調査、フィールドワーク。本年度は、8月に阿寒、旭川地区を中心に北海道にて、9月に関東在住のアイヌの造形表現者への聞き取り、作品調査を行う。また前年度の調査を踏まえ、沖縄県立美術館博物館にて開催中の『沖縄美術から見た手仕事』展を4月末に見学、併せて伝統的手工芸の実態と伝統に参照するさまざまな現代アートの動向についての調査を沖縄・新潟などで実施してアイヌ・アートの現状・課題との比較検討を深める。また伝統や地域の人々の経験・歴史に参照する現代作家へのインタヴューをおこなう。 ③現代のアイヌ手工芸、造形の展示、発信の場を運営している人々、個人や画廊主、土産物店の経営者、資料館・記念館・美術館・博物館、地方公共団体や財団の企画担当者、手工芸の講座の講師などへのインタヴューを中心とする調査をおこなう。8月には北海道でフィールドワークを実施し、また夏季に北海道・関東を中心に各地で実施される一般参加者を対象とするアイヌ文化のワークショップに参加、企画・運営団体や個人との協力関係を築きつつ、参与観察、聞き取り調査をおこなう。年度末(12月、または1月上旬)にはその成果と課題を討議する公開研究会を開催する。年度末までに、本年度の成果を踏まえ、論文を執筆し発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3月に計画していた現代のアイヌ・アートの制作者への聞き取り調査、フィールドワークが、および取材相手の都合により難しくなったため次年度に延期した。日程調整が容易で、北海道の気候が安定している8月に実施する。 札幌での文献資料調査と併せて、1週間を予定し、各所に連絡をとる(4月~6月)。旅費・滞在費にあてる予定である。調査の計画・概要は以下の通り。 ・アイヌの人々を担い手とする観光業や文化活動が活発に展開する阿寒地域を中心に、文献資料調査(観光パンフレットなど現地で入手可能なものを中心に)、および聞き取り調査をおこなう。アイヌ工芸、アイヌ・アートの作家が、いつ、どこで、誰によって「伝統」にかかわる技法や知識・情報、考え方を学んだのか、学びの場、環境の実態を把握する。 ・併せて、アイヌ手工芸、造形の展示、発信の場を運営している人々、個人や土産物店の経営者、博物館(網走北方民族博物館)、シアター(阿寒湖アイヌシアターイコロ)、地方公共団体や財団の企画担当者、手工芸の講座の講師や受講者へのインタヴューを予定している。
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