2014 Fiscal Year Research-status Report
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25360039
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
池田 忍 千葉大学, 文学部, 教授 (90272286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 明子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (30571070)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 工芸 / 手芸 / アイヌ文様 / アイヌ・アート / 先住民族 / 展示 / ジェンダー / 伝統の表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目にあたる本年度は、計画段階で設定した以下の二つの課題にかかわり、調査・研究と共同討議を重ねた。 第一に「「伝統」解釈の再検討」という観点からは、初年度に引き続きアイヌ・アート、アイヌ工芸、手仕事の歴史と歴史像(言説・認識・メタヒストリー)の解明を目指し、以下の論文を執筆・公刊した。池田忍「アイヌ・アートをめぐる「物語」の現在(前編) ―享受者の視点から可能性を考える」、山崎明子「言説としての「女職人」」(『歴史=表象の現在Ⅱ ―記憶/集積/公開』2015年3月)。これらの論文では、特に女性の表現者に寄せられる期待の地平(言説)と表現者自身による創作実践と意味付けとの間の乖離が浮かび上がらせた。同時にその乖離、溝を埋め、現代社会のジェンダー秩序を維持しつつ、造形・創造活動を活性化しようとする産業界・地域社会の思惑をも同時にあぶり出した。 第二に「展示の場・受容の文脈の検証」にかかわり、文献資料・聞き取り調査、展示見学を中心とするフィールドワークを引き続き実施したが、本年度は特にアイヌの造形、表現活動を理解する上で文脈を共有する現代の日本社会における伝統工芸、各地の手仕事の展示・活性化の取り組み、現代アートによる伝統工芸や各地の手仕事への参照・コラボ展示に注目し、取材を重ねた。また研究協力者である吉原秀喜氏(平取町アイヌ施策推進課学芸員/主幹)の示唆に基づき、文化的景観の保全にかかわる国際的な取り組みについて学び(奈良文化財研究所景観研究室訪問、国際研究集会への参加)、この視点からも、北海道におけるアイヌ民族の伝統的生活空間の再構築にかかわる取り組みと工芸、手仕事の活性化の現状を調査・検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに実施したフィールドワークと討議を通じ、アイヌ・アートの歴史性を踏まえた今後の制作と享受の活性化を促す上で、以下の二つの視点・論点からの研究が重要であるとの結論を得た。 第一に、アイヌ民族による「伝統的」工芸品、あるいは現代的なアレンジや創造性を意識的に発揮したアイヌ・アートにおいて、作品に込められた意味、時に隠れ、時に作り手によって語られる「物語」、展示の場に生じる「物語」こそが、それらの造形の魅力の源泉として効果を発揮しているという事実である。同時にこれらの「物語」は、アイヌ・アート、アイヌ文化を現代日本社会に位置付ける枠組みを作り、享受者による解釈を規定する力を持つことを浮かび上がらせた。 第二に、今日のアイヌ・アートの展示、アイヌ文化発信の場において、作品の配置・空間構成による文脈は、(外部の)プロであるキューレーターやギャラリストによって作られる場合が多いが、この手法と文脈についての批判的考察には、美術館やギャラリーにおける他の共通するアート展示のそれとの比較が欠かせないことを明らかにした。 以上の二点に集約されるように、アイヌ・アートの歴史と現状、および将来を考える上で、それを閉じられた社会集団による伝統的な文化実践としてではなく、日本国内、および国際的な動向と関連付ける視点の重要性を理解し、フィールドワークと討議を進めることとした。当初の計画を超えて、多くのアイヌの表現者やその造形活動の支援者へのインタヴューを行なうことが可能になり、また共通する問題を抱えた現代アートの現状についてのフィールドワーク、検討をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成27年度は、26年度に引き続き、現在一般的に広く認知され・流通しているアイヌの伝統工芸品やアイヌ・アートの周縁、もしくは外側にも目を向け、アイヌの人々のより広範な造形活動や、文化実践の意義を考察し、支援のための体制づくりにむけフィールドワークと主題検討をおこなう。現行の伝統工芸やアイヌ・アートの枠組みを支える価値観、物語は、未だ有効な回路でもあるが、その中に閉じこもっていては見えない地平があると考えるからである。アイヌ・アートと問題を一部共有する現代のアートにも目を向け、加えてアイヌ、アイヌ文化に向けられる外からのまなざしの変化や多様性を表す「物語」に着目することで、アイヌ・アートの未来を展望する計画である。 具体的には9月までに、本科研の遂行に協力を得てきたイラストレーターの小笠原小夜氏、造形活動のみならず演劇やムックリ演奏など音楽を通じた文化発信の試みを重ねている恵原詩乃氏の活動を取材する。併行してアイヌ民族の造形活動や作品展示を企画・運営する人々、個人や画廊主、土産物店の経営者、資料館・記念館・美術館・博物館、地方公共団体や財団の企画担当者、手工芸の講座の講師への追加インタヴューをおこない、調査を完了する。 その後10~12月にかけて過去3年間の取材・調査結果をまとめ、研究会を開催して課題を明らかにする。その上で1月上旬を目処に公開研究会を開催し、これまでの研究成果を広くアイヌ文化に関心を持つ多くの人々に問う。公開研究会における討議を踏まえ、論文を執筆、一般書としての企画を立て出版を具体化する。
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Causes of Carryover |
年度末に実施した研究集会に招いた講師、研究協力者の出張旅費・経費が予定より多少少額であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も1月に公開研究会を計画しており、その際に招聘する講師の出張旅費として使用する予定である。
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