2013 Fiscal Year Research-status Report
灌漑管理と女性のエンパワーメント~東ティモールの水利システム改革とジェンダー
Project/Area Number |
25360050
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
古沢 希代子 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80308296)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 開発 / ジェンダー / 灌漑 / 農業水利 |
Research Abstract |
本研究の目的は、男女共同参画を通じて東ティモールにおける水利システムの改革を実現する過程を考察することである。25年度は、8-9月(約3週間)、10月(4日間)、12-1月(2週間弱)、3-4月(2週間弱)に、マヌファヒ県のカラウルン灌漑スキームとボボナロ県のマリアナ第一灌漑スキームを中心に実地調査を実施した。今年度の収穫は、カラウルンとマリアナ第1において、農水省県事務所とセミナーを共催できたことである。 カラウルンでは、10月下旬に、システムの改変に関するセミナーを実施した。水利組合の女性役員が病に倒れたため、女性農民の参加は少数だったが、女性部落長、村落評議会の女性役員、また、実習中の国立東ティモール大学農学部の女子学生が多数参加した。本セミナーを通じて、プロジェクト予算の確保やPhase 2の設計などに懸念が生じたため、その後、財務省の担当部署に予算の執行状態を確認し、かつ組合長の発案で野党の女性国会議員に面会し本会議での質問の要請を行った。 マリアナ第1スキームでは、1月始めに、水利組合の女性会員を対象にしたワークショップ(WS)を開催した。このWSには地区の女性農業普及員も参加した。WSでは、準備したスライド(写真とテトゥン語の説明)を駆使してスキームのハード面(構造)とソフト面(維持管理/組合の機能)を1から確認し、次にグループに分かれて女性の参画の現状や水利費不払い等問題の解決策について検討した。その結果、女性農民の水ニーズが高いにもかかわらず意思決定への参加が限られていること、配水ルールが必ずしも明確でないこと、維持管理費をめぐる政府と農民の対立により水利費の支払いが停止しており、その弊害が維持管理に及んでいることが判明した。WSの提言として、共同参画推進のため村や部落で同様のWSが開催されること、政府との対立を解決するため「対話」を行うことが合意された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来からコンタクトのあった灌漑システムの関係者(農水省灌漑局、農水省計画政策局、農水省県事務所、農業普及員、水利組合幹部及び会員)との連携を継続しつつ、これまでコンタクトのなかった多様なアクター(水利組合の水門管理人、設計会社、財務省のMajor Project Secretariat、国会議員)にアプローチできた。 ふたつのスキームでは予定どおりセミナーとワークショップ(WS)を開催し、参与観察を行うことができた。 マリアナ第1スキームのWSでは、スキームの説明に関して農水省県事務所の灌漑技師と水利組合会計担当理事の協力を得た。彼らはすべてのモジュールに参加して女性たちの発言を聞き、必要に応じて応答もした。成果物として、スキームの骨子に加えて農水省のジェンダー政策やカラウルンスキームでの共同参画推進の取り組みについてまとめたテトゥン語のスライドが残った。WS後はグループディスカッションの結果や全体討論からの提言などを加筆した報告用スライド(全93枚)を作成し、利用可能なツールとした。参加者の反応は良く、地元で同様のWSを開催してほしいと要請が出たことで、次年度もWS開催による参与観察を継続する基盤ができた。同スキームでは女性を対象にしたセミナーは初めての試みで、コミュニティーラジオの取材が入り、番組化された。 一方、カラウルンスキームでは2010年のWSと違って農水省県事務所の灌漑技師たちの準備が充分でなく、また、電気が使用できない場所で実施されたため、必要な資料を提示しながらの説明が行なわれなかった。観察者としての収穫は、今回のセミナーを通じて農水省本省と県事務所の関係(本省の権威主義的態度)、県事務所には絶えず情報が不足しており、そのために農民との間で県事務所が困難に直面している状況を把握できたことであった。
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Strategy for Future Research Activity |
参与観察の対象をどこまで拡大するかは検討中である。全国レベルの政策形成(維持管理支援の統一、公平性の担保、共同参画への方針)に目配りしつつ、研究対象はふたつのスキームにしぼる方向も考慮している。しかし、ふたつのスキームに絞ったとしても課題は山積している。 マリアナ第1では、政府との対話をどのようにして実現するのか、7年間開催されていない水利組合総会を男女共同参画で開催するにはどのような手続と方法が適切か、そして、女性たちの関与が深まることで水利費不払い問題を解決に導くことはできるか、といった課題が存在する。参加者の地元でWSを開催することを含めて、参与観察を継続する必要がある。 また、カラウルンスキームではPhase2の内容次第では、対岸のアイナロ県側にも水路が伸びる可能性があり、水の分配をめぐる問題が発生する恐れがある。また、Phase2には地元(農水省県事務所及び現地農民)が最も関心を寄せている排砂システムの見直しという課題が横たわっている。しかし、そのすべてを乗り越えたとしても、マリアナ第1が抱える維持管理に関する政府との役割及び費用の分担問題が残り、そこがクリアできなければ水利費の算定は不可能になる。リノベーションの進行を見ながら、ワークショップや対話の実施を支援し、議論の行方を見守る予定である。またスキームが機能不全となったことによる食料生産と生活への打撃を把握する。 一方で、農水省灌漑局の共同参画に関する態度は明確でなく、農水省のジェンダー政策が発効した後、灌漑開発/農業水利のガイドラインに落としこんでいくことが必要である。そのための戦略を農水省のジェンダー平等推進にかかわるすべてのステークホルダーがボトムアップで構築することが求められるため、そのプロセスにも注目していきたい。あわせて、日本政府が支援している東ティモール灌漑開発マスタープランの行方も確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
10月に海外出張の追加が生じ、予算が不足したため、予定されていた3-4月の海外出張旅費を次年度に全額執行するという対応を取った。そのため、25年度の予算の一部を次年度使用とした。 25年度の次年度使用額は3-4月の海外出張旅費に充当し、26年度の予算は3 回の現地調査のための海外出張旅費に使用する。
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[Book] Confronting Land and Property Problems for Peace2014
Author(s)
Shinichi Takeuchi ed.,Christopher Burke, Sergio Coronado Delgado, Antero Benedito da Silva, Kiyoko Furusawa, Noriko Hataya, Mari Katayanagi, Jean Marara, Ryutaro Murotani, Sylvestre Ndayirukiye, Flor Edilma Osorio Perez, Fumihiko Saito, Nadarajah Shanmugaratnam, Shinichi Takeuchi, Nicolas Vargas Ramirez
Total Pages
Chapter 9 (pp.212-241)
Publisher
Routledge