2014 Fiscal Year Research-status Report
灌漑管理と女性のエンパワーメント~東ティモールの水利システム改革とジェンダー
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25360050
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
古沢 希代子 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80308296)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 復興開発 / インフラ / 灌漑 / 農業水利 / 水利組織 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は5回の現地調査を実施し、水利行政における構造的問題と調査対象の水利組合での女性理事誕生の過程を追った。 2010年4月の組合総会で女性理事が誕生したマヌファヒ県カラウルンスキームでは、第二期改修工事の設計図面をめぐって農水省県事務所と水利組合が政府案に異議を唱えた。しかし副大臣は了承せず、その後内閣改造と省庁人事刷新があったため結論が出ていない。大規模なインフラ改修は、担当省庁(中央と県)、財務当局、建設会社が関与する複雑なシステムであり、かつ上意下達である。地元による対案は妥当な内容であったが、成否は見通せない。 2014年1月に女性水利組合員向け研修を実施したボボナロ県マリアナ第1スキームでは改修工事のために乾季の通水が停止した。5月に説明会が実施され、女性参加者から代替水源や工期に関する質問が出された。9月、男女共同参画で総会を実施する方法が検討され、10月には6年ぶりに組合総会が実現した。総会には各区画からの代議員(男性3名、女性2名)が参加し、書記と会計担当理事に女性が選出された。国立大学農学部を卒業した若い女性と水利組合の区画リーダーで村落評議会議員も務める女性である。その後2015年1月と3月に理事会が開催され、5月に区画リーダーと理事を対象とする研修が実施された。しかし、女性理事の1名は英国に出稼ぎに行く夫の見送りと実家に預けた子どもの事故死で2回の理事会に出席できず、もう1名は嫁の流産で研修に参加できなかった。 同地では維持管理費の分担をめぐり政府との紛争が続いていたが、農水省幹部が説明に訪れることはなかった。研修ではJICA派遣の専門家と県事務所が政府の政策変更を説明し、組合は現政策に基づいて水利費の徴収を開始する。改修未着手の箇所、越流、市場でのゴミ・汚水投棄と課題は山積しており、女性理事たちが組織の再建と運営に果たす役割を注視していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ボボナロ県マリアナ第1スキームにおける調査活動はテトゥン語で実施されているため、現地のコミュニティーラジオで継続的に取り上げられ、内容が紹介されている(2014年1月、2014年10月)。2014年10月、マリアナ第1スキームにおいて水利組合の総会が実現し、実現に至る過程と新理事会の動きに関する参与観察が叶ったことは成果であったが、コミュニティーでの開催を要請されていた女性農民向けワークショップの開催は平成27年度に延期することとなった。 新たな成果としては、直接の関係省庁である農水省以外の関係者と対話を持つことができたことである。例えば、マヌファヒカラウルン灌漑スキームの改修設計問題に関しては国会副議長(財政委員会所属)や与野党の女性国会議員たち(フレテリン党マヌファヒ県出身議員、民主党院内総務)と議論を行い、議会サイドの問題意識を知った。また、財務省でインフラ基金を統括する大規模プロジェクト事務局の担当者とも面談が叶い、農水省側の予算消化の遅れとペナルティー(予算削減)について情報を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ふたつのスキームの再建過程と男女共同参画の進展状況をモニターする。 ボボナロ県マリアナ第一スキームでは、9月にコミュニティーでの女性農民向けワークショップを開催する予定である。また、マリアナでは昨年ドメスティックバイオレンス被害者のためのシェルターが開設された。同所の活動として畑作を開始する計画があり、農業水利に関するワークショップの開催を要請されており、協力する予定である。これらを通じて女性農民が抱える課題に関して参与観察を行う。マヌファヒ県カラウルンスキームに関しては、改修計画と水利組織再建に関するモニターを首都と現地で継続する。これまでに発見したハード面の技術的課題に関しては内外の技術情報にアクセスし、解決策に関するリサーチを試みる。 国政レベルでは、農水省における「ジェンダー政策文書案」の取り扱いについてモニタリングを継続する。あわせて、JICA(国際協力機構)が支援する「東ティモール農業開発マスタープラン」(灌漑開発分野を含む)の作成過程と成果物について、水利行政改革と男女共同参画の観点から評価を行う。 文献研究では、日本の女性研究者が行っている農業水利の研究と開発協力実践に注目し、男女共同参画のグッドプラクティスを探る。あわせて、国連FAOが近年改訂したSEAGA(社会経済ジェンダー分析)の灌漑分野に関するガイドブック, Margareet Zwarteveen, Sara Ahmed, Suman Rimal Gautam ed., Diverting the Flow - Gender Equality and Water in South Asia (2012) などの研究書も参照する。 本年度は研究の最終年度であるため、現地語と日本語でこれまでの知見をペーパーにまとめ、現地の関係者と共有をはかる。
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