2015 Fiscal Year Annual Research Report
灌漑管理と女性のエンパワーメント~東ティモールの水利システム改革とジェンダー
Project/Area Number |
25360050
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
古沢 希代子 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80308296)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 灌漑開発 / 農業水利 / 水利組合 / ソーシャルキャピタル / ジェンダー / 男女共同参画 / 気候変動 / 自然資源管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、男女共同参画による水利システム改革の道筋を考察することである。 東ティモールでは、気候変動によって降雨量が減少した結果、灌漑へのニーズは増大し水争いも発生している。女性は水汲み労働を担わされており、炊事・洗濯・衛生管理と耕作のための水ニーズから灌漑システムへの関心は高い。しかし、問題が施設の設計・施工、水利行政、水利組合の運営に至ると、女性の関与できる余地はきわめて小さい。本研究の結論は、官僚と技術者が権力を握るインフラ建設の世界では、農民による参画自体が困難であるが、女性にはさらにジェンダー役割という壁がある、だが、下からの関与は閉ざされた「川上の実態」に切込む一歩となることである。 本年度は4回の現地調査を実施し、マリアナ第1とカラウルンにおける水利組合の状況、行政との関係、両組合で誕生した女性理事のその後を追いかけた。 マリアナ第1では年齢と経歴が対照的な二人の女性理事が誕生したが、流産した嫁や病気の弟の付き添い、海外に出稼ぎに出る夫の見送りや子どもの事故死や病気の義父の世話といったジェンダー役割が任務遂行とキャパビルの機会の障害となっている。しかし彼女たちの登場で旧組合の財務状況、会計管理、維持管理の実態が明らかになり、水利費徴収の方法を変える議論が始まった。 カラウルンでは、耕作放棄が常態となり沈砂池の設計が争点になると、女性の参画を推進してきた女性理事の活動は頓挫した。一方、首都では同県出身者を含め複数の女性国会議員が排砂機能の強化を望む地元の声を伝えた。だが、世銀による灌漑投資批判、原油安と歳入減少、官僚の保身により、地元の設計案は却下された。現地では、雨不足で玉蜀黍も育たず、キャッサバの実は苦くなったと女性たちは嘆き、今完成した施設で水田耕作が再開されようとしている。本研究はこの新たな局面で農民・組合と施設の格闘を記録し問題提起を続ける。
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