2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後ドイツ社会国家におけるセクシュアリティの統制と解放
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25360053
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
水戸部 由枝 明治大学, 政治経済学部, 准教授 (20398902)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 戦後西ドイツ / セクシュアリティ / ダグマー・ヘルツォーク / マーガレット・サンガー / ハンス・ハルムゼン / プロ・ファミリア |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ダグマー・ヘルツォーク(川越修、田野大輔、荻野美穂訳)『セックスとナチズムの記憶――20世紀ドイツにおける性の政治化』(岩波書店,2012年)に関する報告を行い、その成果を、慶應義塾大学の矢野久教授と共著書評論文としてまとめた。 本書は、第三帝国から現在までのドイツにおける性道徳をめぐる争いの歴史を描いたもので、①1968年世代のナチズム観が、いかに1960年代から1980年代にかけてドイツ社会を作り変えようとした彼らの試みの基盤になっていたか、さらには、②これらの試みそして1968年の意味そのものが、1990年のドイツ再統一後にどのように解釈し直されてきたか、を明らかにした研究である。戦後ドイツのセクシュアリティ史研究を進展させる上で、極めて重要な文献といえよう。 そこで本書評論文では、本書の内容と訳者たちの研究を紹介しながら、今後のセクシュアリティ史研究の課題について論じた。具体的には、セクシュアリティの角度から過去を解釈し、通史を描いた点を評価しつつも、イメージと現実の混同、事実認識の根拠(統計的数値・政策)のあいまい性、社会階層・ミリュー・世代の問題への配慮のなさ、といった点を批判するとともに、①一次史料にもとづく実証研究と言説分析の両立、②セクシュアリティ史研究の方法論的な問題点、③セクシュアリティ史の東西ドイツ「比較」研究の可能性について検討した。
(2)産児制限を推進する組織「プロ・ファミリア」と同組織の創設者ハンス・ハルムゼンの活動内容について調査した。その際、同組織とマーガレット・サンガーおよび彼女が設立した国際家族計画連盟と関係性と、ハルムゼンがナチ時代に障害者の断種に積極的に関わっていたことに言及し、戦前の優生思想と戦後の産児制限を巡る議論との連続性・断絶性、また公権力側との接点を明らかにすることに努めた。現在、論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、研究計画になかった研究実績(1)と、第二の研究分野である第二帝政期に関する原稿執筆に時間を要し、研究実績(2)の原稿が完成していないため。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、占領期に国家の立て直しを図った公権力側の、①近代家族の再建、②セクシュアリティの統制への取り組みが、その後の東西ドイツに与えた影響について考察する。この時代、一方で、父親か母親あるいは両親ともに不在の家庭、離婚の急増、男性不足による婚姻率の低下、占領軍兵士との間に生まれた子どもを抱える母子家庭といった非標準的家族の広がりが、他方で、占領軍兵士による強姦、占領軍兵士とドイツ人女性の関係、性病蔓延が問題化するなか、これらの問題に対処することは、近代家族の再建を目標とする公権力側にとって最重要課題であった。 こうしたなか公権力側は、母子家庭を近代家族から逸脱した存在とみなし、占領軍兵士の慰安婦に対しては、一般のドイツ人女性を守るために欠かせない存在と捉える一方、性病の蔓延、性的堕落による社会秩序の揺らぎ、人種主義を理由に、厳しく管理した。本研究では、①強姦の定義と強姦が含む意味(性差別、人種差別、反共産主義)、強姦被害状況と強姦被害にあった当事者の精神的・身体的被害状況、被害者と加害者に対する国家の対応、②占領軍兵士と関係をもった女性たちが社会国家に包摂あるいは排除されるプロセスに焦点をあてながら、調査を進めていく。 史料収集に関しては、今年度開始したドレスデン工科大学での在外研究を活かし、連邦公文書館、国立・州立・大学図書館等で広範に行う。具体的には、①旧西ドイツ側では、アメリカ占領軍総司令部が設置されたバーデン=ヴュルテンベルク州ハイデルベルクとマンハイム(カールスルーエ州立文書館)、世界最大規模のアメリカ軍基地が存在するラインラント=プファルツ州カイザースラウテルン、②東ドイツ側では、ソ連占領地区であったザクセン州ドレスデン(ドレスデン連邦国防軍軍事史博物館、ドレスデン衛生博物館、ザクセン州立図書館―国立・大学図書館)での事例研究を想定している。
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Causes of Carryover |
①論文執筆の際、図書よりもアルヒーフ史料(データのパソコン入力)を多く利用したため。 ②消耗品費ほぼ未使用のため。 ③独文校閲費未使用のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
①図書費・消耗品費 ②アルヒーフ調査に伴う史料コピー代・交通費・宿泊費・日当 ③独文校閲費
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