2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦後ドイツ社会国家におけるセクシュアリティの統制と解放
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25360053
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
水戸部 由枝 明治大学, 政治経済学部, 准教授 (20398902)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 戦後ドイツ / セクシュアリティ / 家族 / 占領軍兵士とドイツ人女性 / 性病・妊娠中絶 / 性教育 / ケーテ・シュトローベル / ハンス・ギーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
第二次世界大戦の敗戦国ドイツは、離婚の急増、男性不足による婚姻率の低下、父親か母親または両親のいない家庭や占領軍兵士との子どもを抱える母子家庭といった非標準的家族の増加、占領軍兵士とドイツ人女性の関係(強姦被害者、慰安婦、恋人、妻)、売買春の広がり、性病蔓延といった問題に直面する。それゆえ公権力側の当面の課題は、核家族、性別役割分業の推奨、男性単独稼得者モデルを特徴とする近代家族の再建とセクシュアリティの統制によって、これら諸問題に取り組むことであった。 本研究では次の3点を明らかにした。①ドイツ当局は占領国側の強い要請に従い、占領軍兵士およびドイツ人の性病感染を徹底的に阻止しようとした。具体的には、兵力や労働力ばかりか家族や子どもにも悪影響をおよぼすことから、性病感染状況の実態調査、医療施設の確保、猥褻行為や売買春の取り締まりに努めた。また妊娠中絶を事実上合法とすることで、強姦や貧困などの問題を解決しようとした。 ②50年代に西ドイツ政府は、キリスト教的な性道徳に基づきセクシュアリティを法的に厳しく管理することで家族の再建をある程度成し遂げる。しかし60年代半ば以降、私的領域への過剰な介入に若者たちが反発し、もはや法、性道徳、イデオロギーによってでは、婚姻数と出生数の減少、離婚数と婚外子数の増加、平均初婚および初産年齢の上昇、若者たちの意識変化(婚前交渉、産児制限、同性愛などへの肯定的見方)を統制できなくなった。 ③政府は妊娠中絶や同性愛関係の合法化や現実に即した性教育・啓蒙活動の必要に迫られ、たとえば連邦保健省は性教育本『性の図解書』の出版でもって対応しようとする。しかし性教育を管轄する各州文部省の支持を得られず、家族スタイルや性規範の多様化に十分対応できる政策を打ち出せなかった。このことは個人の権利保障と共に私的領域を管理してきた社会国家の揺らぎを示していよう。
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