2014 Fiscal Year Research-status Report
哲学的当事者研究:身体障害者のための自助プログラムの構築
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25370010
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
稲原 美苗 大阪大学, 文学研究科, 助教 (00645997)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 障害の哲学 / 当事者研究 / 臨床哲学 / フェミニスト現象学 / 身体論 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は「当事者研究」と「哲学カウンセリング」の相違点を見つけ出し、二つの自助実践の特徴を探る作業に入った。それによって、障害当事者の自助のあり方を独自に精査し始めた。「哲学カウンセリング」に関しては、障害当事者に使われたという事例や文献があまり存在しないため、はっきりした相違点を考察することはできなかったが、哲学カウンセリングが障害当事者をどのように支援していけるのかという問題点を考え始めることはできた。 6月29日に関西障害者歯科臨床研究会第6回研究集会で講演をし、7月12-13日に第23回日本健康教育学会学術大会にて共同発表をした。これらの発表は歯科医療の専門知と障害者の経験知をつないで新しい「知」を創ることの重要性を訴えた。実際に知をつなぐことで、障害のある患者にとってより適切な治療について、多くの歯科医療従事者と対話をする機会を得た。 昨年、10月15-17日にスウェーデンのリンショーピン大学認知症研究センターで開催された「Life with Dementia: Relations」国際学会で研究発表をし、他国の認知症研究者と情報交換を頻繁に行った。認知症の当事者研究の必要性を再認識した。そして、平成27年2月に英国のハル大学を訪問し、研究発表をし、現地ホスピスを見学した。高齢者と障害の問題を考えることによって、障害をより多角的に捉え始めた。 平成26年度の本研究は「当事者研究」と「哲学カウンセリング」などを融合し、障害者や高齢者の自助プログラムを哲学的に考える意義などを国内外の研究者や医療者と一緒に考察できた。25年度に比べて、哲学実践にもう一歩近づけたと感じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「当事者研究」や「哲学カウンセリング」を探究し、哲学的な考え方を当事者研究に応用するということも試みた。「疾病・障害の哲学」や障害当事者の経験知の重要性を海外に向けて発信できた。スウェーデンとイギリスで発表した論文については、それぞれ出版される予定である。このことからも、現在までの研究目的の達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。 国内でも、さまざまな場所で研究発表し、情報交換を行う機会に恵まれた。東京大学大学院総合文化研究科附属「共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」において、26年度のキックオフイベントで石原孝二准教授と対談をさせてもらい、世界的なフェミニスト思想家であるサンドラ・ハーディング氏が来日した際も、発表する機会をいただくなど、研究者としての立ち位置(スタンド・ポイント)について考え直すことができた。当事者の経験をどのように記述し、それを研究し、そこから得た知識を当事者の生きる世界へ還元していくのかを考えるという課題も得た。 なお、26年度にウプサラ大学のジェンダー研究センターで行われる学会・研究会に参加す予定だったが、リンショーピン大学の認知症研究センターの国際会議にジェンダー研究者がたくさん集まったこともあり、予定を変更した。北海道浦河町にある「べてるの家」を訪問するはずだったが、別の予算で行くことができたので、イギリスのハル大学に行くことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はこれまでの研究成果をまとめ、自助実践プログラムについて掘り下げて考え、「哲学的当事者研究」を提起する。身体障害のある当事者がもつ心と身体の関係、自己と他者の関係、そして自己と世界の関係を考究し、より良い関係を築ける方法を考える。これらの関係が少しずつ改善していくことが自助実践につながると確信している。 平成26年度に引き続いて、医学や歯学、リハビリテーション学とのコラボレーションをしつつ、当該領域で「哲学に何ができるか」を考えたい。哲学にはあらゆる学問領域を繋ぐ働きがあり、当事者研究、哲学カウンセリング、そして哲学対話の実践から「障害者のありのまま」を見つめ直す。 27年度も、6月に「京都大学こころの未来研究センター」で開催される予定の京都カンファレンス2015「拡張した心を超えて」での発表が決まっている。
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Research Products
(13 results)