2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
頼住 光子 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (90212315)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 道元 / 『正法眼蔵』 / 大乗仏教 / 「摩訶般若波羅蜜」巻 / 『般若心経』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)『正法眼蔵』等の主要著作に対する厳密なテクスト・クリティークに基づく、道元の思想構造のテクスト内在的解明(2)(1)を基盤とする大乗仏教思想史という観点からの道元の思想的意義の多角的に検討 という目的を果たすために、以下の研究を行った。 まず、研究目的(1)については、道元の思想構造の文献的解明のために不可欠な、『正法眼蔵』本文の注解を、特に大乗経典との繋がりの深い「摩訶般若波羅蜜」「諸法実相」「仏性」「海印三昧」「法華転法華」「観音」巻等を中心に行った。その際、宗門の研究成果や歴史学、仏教学等の研究成果にも十分に注意を払いながら、これまでの通念的な解釈、宗教的信仰や実践的実感に基づく主観的な思い入れ、歴史的価値判断や前提に基づいた予断的解釈とは距離を取りつつ、あくまでもテクスト内部の論理構造の把握を目指した。 研究目的(2)については、『般若経』『法華経』『華厳経』『涅槃経』などの主要大乗経典の道元の受容様態を検討した。具体的には以下のような研究を行った。1)『正法眼蔵』諸巻についての本文校訂、諸異本の校合 2)中国禅の典籍の調査収集 3)『正法眼蔵』諸巻の全文注釈。その際、用例参照、文体の類型化などを行う。4)『般若経』『法華経』『華厳経』『涅槃経』の『正法眼蔵』における引用の様態の検討5)以上の校訂、註釈、解釈作業に基づき、道元の思想の意義を大乗仏教という観点から解明した。 以上の本年度の成果については、その一部を、論文発表、口頭発表の形で公表した。また、道元の思想構造の解明と『正法眼蔵』注釈に関しては、それぞれ具体的な出版計画をすすめ、出版社において企画を実現するめどが立った。また、これまでの研究成果については、今後、海外学会での発表を計画しており、本年度はそのための打ち合わせを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度に公表した研究実績のうちでもっとも重要なものは、「『正法眼蔵』「摩訶般若波羅蜜」巻に関する一考察」である。本論文においては、従来その重要性が十分に理解されていなかった『正法眼蔵』「摩訶般若波羅蜜」巻の意義を再検討し、七五巻本でも六〇巻本でも、「現成公案」巻と「仏性」巻に挟まれた第二巻に位置する本巻が、道元思想のエッセンスでありつつ俗人に与えられたいわば仏道入門の書でもある「現成公案」巻と、道元の思想的課題として一二を争う重要性を持つ「仏性」問題を扱った「仏性」巻とをつなぐ役割を果たすとともに、俗人を意識した「現成公案」巻に対して、出家した僧侶を意識して書いた巻であることを、具体的な記述を手がかりとしながら明らかにした。また、本研究論文においては、「摩訶般若波羅蜜」巻の構成を以下のように理解し精密な解釈を試みた。 1)導入部:『般若心経』の言葉を用いながら、「空」なる「般若波羅蜜」がどのように修行者に立ち現れてくるのかを説明する。 2)『大般若経』不著相品の解釈:「般若波羅蜜」をめぐる二つの対話をめぐって、「施設可得」(=「無の施設」)と「虚空のごとく学す」について説明する。 3)如浄の風鈴頌の解釈:般若を説くことについて検討する。 4)『大般若経』讃般若品の解釈:「般若波羅蜜」と仏との一体性について説明する。 一巻の全体構造としては、導入部で提示された「空」からの立ち現れ(現成)について(2)で「無の施設」をもとにその機序、構造を説明し、(3)で立ち現れの体現(自利)と伝達(利他)を明らかにし、それを受けて(4)で立ち現れを体現する修行者はその限りで仏であるという修証一等が示さる、ということになる。大乗仏教の中心思想である「般若空」の道元独自の理解として「摩訶般若波羅蜜」巻を研究した先駆的な業績になると思われる。他にも関連論文の執筆発表を行い、出版計画を進行させた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、4年間の研究計画の最終年にあたり、これまでに行ってきた研究を継続しつつ、そのまとめを行う。特に研究成果の公表に重点的に取り組む。 まず、これまで行ってきた研究の継続として、(1)『正法眼蔵』等の主要著作に対する厳密なテクスト・クリティークに基づく、道元の思想構造のテクスト内在的解明 (2)(1)を基盤とする大乗仏教思想史という観点からの道元の思想的意義の多角的に検討 があり、これらを遂行すべく以下のように計画している。 研究目的(1)については、道元の思想構造の文献的解明のために不可欠な、『正法眼蔵』本文の注解を、特に大乗経典との繋がりの深い諸巻の注解を継続する。 研究目的(2)については、主に親鸞思想との比較と、『般若経』『法華経』『華厳経』『涅槃経』などの主要大乗経典や天台教学の道元の受容様態を検討する。特に平成28年度は、1) これまでに行った『正法眼蔵』諸巻についての本文校訂、諸異本の校合を総括する。2)これまでに行った中国禅の典籍の調査収集を総括する。3)これまで行った『正法眼蔵』諸巻の全文注釈について、用例参照、文体の類型化などをふまえ総括する。4)これまでに行った諸大乗経典の道元の引用様態についての解明を総括する。『法華経』に関しては天台本覚論をはじめとする天台教学との関係に留意する。5)親鸞思想と道元思想について大乗経典、特に空の理解の観点から比較する。6)以上の校訂、註釈、解釈、比較に基づき、道元の思想的構造を解明し、それを総括する。これらを前提として、大乗仏教思想史上における道元の位置づけに関して総括する。 以上について学会で口頭発表、論文発表、研究報告等を行なう。また、総括の内容を踏まえて、現在計画が具体的に進行している道元関係の図書出版を実現させる。特に、海外発信について留意し、英語での成果発表(論文発表)を行う。
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[Presentation] 日本思想の中の「無常」2015
Author(s)
頼住光子
Organizer
皇学館大学、神道学科・神道学会共催講演会
Place of Presentation
皇学館大学(三重県伊勢市)
Year and Date
2015-11-20 – 2015-11-20
Invited
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[Presentation] 道元入門2015
Author(s)
頼住光子
Organizer
道心会、青年のための仏教講座
Place of Presentation
善光寺大本願(長野県長野市)
Year and Date
2015-06-20 – 2015-06-20
Invited