2013 Fiscal Year Research-status Report
善と美の関係再構築に向けて-マルティン・ゼールにおけるよき生の倫理学を手掛かりに
Project/Area Number |
25370021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 弘志 広島大学, 文学研究科, 教授 (90351931)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 西洋倫理学 / 自然の美学 / 人格主義 |
Research Abstract |
該当年度における研究実績は、主に以下の2件である。 1.ミヒャエル・クヴァンテ著『人格―応用倫理学の基礎概念』の翻訳出版(単訳、知泉書館、2013年12月20日発行、pp.1-314) 2.玉川大学人文科学研究センター平成25年度第2回「公開講演会」:「美と倫理の関係再構築に向けて」、平成26年2月1日(土)15:00~17:00 この内、2は、三年間にわたる本研究の手順および予想される到達点を、西洋哲学、日本思想、芸術学など、各方面の研究者に提示し、計画の着実な進展に役立てようとしたものである。まず、本居宣長の審美主義、カントにおける美と倫理の峻別などを起点として、倫理への美の貢献可能性を論じるマルティン・ゼール美学-倫理学の骨子を概略した。さらに、倫理的問題の発見原理にとどまらず、日常性を揺り動かし、新たな規範性の根拠として機能する美という、ゼール美学-倫理学の核心的テーゼを踏まえつつ、非完結性の観点で芸術美よりも自然美に優位を与えている点に、ゼール環境倫理学の理論的根拠を突きとめることができた。また、共同体主義と対決し、道徳的規範によって保護されるべき領域の確定を価値倫理学に委ねるゼール倫理学を、リバタリアン的観点で解釈するための知見を得ることができた。 このように自然の美学を説くゼールだが、その美学に基づく環境倫理学に関しては人格中心主義の立場を取っている。1は、ジョン・ロック以来、現代にまで及ぶ人格概念、とりわけ人格の同一性を巡る問題史的考察として傑出した文献である。なかでも、同書で語られる、人格とその他の存在を分断する「生命倫理学のギロチン」の恐怖が、人間に近い動物までを保護対象に含めようとするゼール環境倫理学の拡張主義的人格主義にも付き纏うことを察知させてくれる点は本課題の進展にとって重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度の当初計画においては、マルティン・ゼールの美学上の主著『現象することの美学 (Aesthetik des Erscheinens)』(Frankfurt/M., 2003)を中心に、また、この書を補完すべき『現象することの権力-美学論集 (Die Macht des Erscheinens. Texte zur Aesthetik)』 (Frankfurt/M., 2007)にも目配りしつつ、ゼール倫理学、とりわけその環境倫理学の理論的基礎としての彼の美学思想の解明を目指すとしていた。 この内、実際には『現象することの美学 (Aesthetik des Erscheinens)』の解読に着手し、美学史を近代、とりわけバウムガルテンから論究し始める点にイデア的・理性的美およびその模倣としての芸術という古代ギリシャ以来の(あるいはヘーゲルの)美学思想に対するゼールの消極的態度を予想した見込みが正しいことを確認した。さらに、予想された課題として、美的知覚と想像力の役割、個々の対象のみならず出来事や雰囲気や景観の美的知覚可能性についてのゼールの論究を追跡したが、なお報告・論文等の形に仕上げるには至っていない。 この遅延の最大の理由は、研究計画全般の見通しを優先して、平成26年度の計画を一部前倒しして実施したことにある。したがって、全体としては研究計画の大幅な遅れとみなす必要はない。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度の項で述べたように、平成25年度計画の遅延の原因は、なによりも平成26年度の計画を一部前倒しして実施したことにある。そこで、平成26年度においては、『現象することの美学』および『現象することの権力-美学論集』に現れたゼール美学を、美学史上に位置づける課題を優先する。 さらにはそれと平行して、『幸福の形式についての試論-倫理学のための研究 (Versuch ueber die Form des Gluecks. Studien zur Ethik)』(Frankfurt/M., 1995)に依拠して、社会倫理学(=規範倫理学)に対する個人倫理学、すなわち善と美という二つの要素からなる狭義の〈よき生〉ないし幸福な生の倫理学の理解に努め、最終年度における善・正・美の関係解明という目標達成への土台とする。
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Research Products
(1 results)