2015 Fiscal Year Annual Research Report
善と美の関係再構築に向けて-マルティン・ゼールにおけるよき生の倫理学を手掛かりに
Project/Area Number |
25370021
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 弘志 広島大学, 文学研究科, 教授 (90351931)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 美学 / 徳倫理学 / よき生の倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
マルティン・ゼール美学の根本特徴を主にその著『現出することの美学』(2000)に依拠して解明し、その思想を美学思想史上に位置づけ、よき生の枠内における美的要素の意義について再検討する基礎を確立した。 1.ゼールにおける美的知覚の原型は感性的知覚にある。それは、認識的・実践的関心によって選別・固定化された諸現象を現在という瞬間において同時にすべて聞き取ること、諸現象の戯れとしての「現出すること」に自己目的的に寄り添うことにある。これによって、美はよき生の重要な一部をなすだけでなく、よき生の全可能性空間を開示し、価値倫理学および規範倫理学に材料を提供する。2.現在への佇みにおいて主観と客観とは、単一の知覚状況の両面でしかない。3.感性的知覚は、想像による仮象および(とくに芸術鑑賞における)イデア的意味による拡張を許す。4.人間の意のままにならない点で自然美に相対的優位が認められるとしても、自然美と芸術美とは緊密に結び合っており、その優劣を問うことは無意味である。 以上の特徴を持つゼール美学は、客観的認識か主観的感情か、感性的認識かイデア的認識か、美的対象は実在か仮象か、自然美の優位か芸術美の優位かといった、美学思想の従来の分類項目をすべて包括的に自らの内に配置できるような美学である。それはカント、シラーが理論と実践との和解を可能にする戯れの次元として模索し、ニーチェが規定不可能性と絶えざる自己創造の場として希求し、アドルノが非同一性の領域として承認した世界の一回性の次元を引き受ける。しかしその一方で、倫理学の美学化にせよ、美学の倫理学化にせよ、ニーチェを淵源とするポストモダンの審美主義的立場には与しない。以上の分析から、美学を理論的領域からも倫理的領域からも自立した領域として認めた上で、あらためて両領域との接点や交差のあり方を模索することの必要性を確認できた。
|
Research Products
(1 results)