2013 Fiscal Year Research-status Report
「まちの物語論」構築のための記憶・忘却・喪失・再生に関する現象学的解釈学的研究
Project/Area Number |
25370024
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
神谷 英二 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (40316162)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 固有名 / 記憶 / まち / アウラ / 弁証法的形象 / ベンヤミン / レヴィナス / 懇請 |
Research Abstract |
平成25年度は、本研究課題の準備段階から取り組んでいる「固有名と記憶」に係る研究を継続した。 「固有名は人間の記憶とどのように関わるのか。固有名は集合的記憶にどのような影響を与えているのか。」本研究は、ベンヤミンの言語論と記憶論を主要な理論的手がかりに、「固有名と記憶」について思索を進め、これらの問いに応えるものである。 平成25年度の研究成果として、「固有名と記憶」研究全体の第2部にあたる論文を公表した。そこでは、固有名のうち「まちの名」に焦点を絞って論究した。まず、遊歩者がまちの名の磁力に惹きつけられるあり方を描写した上で、レヴィナスのテクスト読解における「懇請」の概念を援用し、アウラにも言及しながら、その言語論的な原理を解明した。その結果、まちの名の磁力が世界の根源への門でもあることを示した。その上で、まちの名が弁証法的形象であることを示し、「歴史の原現象」としての、その歴史性を明らかにした。 以上の成果をもとに、次に取り組むべき主題を二つ明確化した。第一に、ベンヤミンが人名から創造した架空の街路名について考察することで、まちの名と人名が相互に浸透することにより、個人的記憶と集合的記憶に何をもたらしているのかを解明すること。第二に、「アゲシラウス・サンタンデル」という名を手がかりに、原理的に想起し得ない記憶について考察すること。 さらに、研究計画に基づき、リクールが『時間と物語』と『他者のような自己自身』で提示した「物語的自己同一性」に関する文献研究を進めた。また、「まちの物語」に繋がり得るエクリチュールとイマージュを含む資料の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題に着手する際に提出した、「平成25年度の研究実施計画」を90%程度実行することができた。 リクールが『時間と物語』と『他者のような自己自身』で提示した「物語的自己同一性」に関する文献研究については、まだ学術論文による成果の公表に至っていないが、「研究の目的」達成という点では大きな遅れではないと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は研究を開始してまだ一年程度であり、なおかつ、現在のところ、研究はおおむね順調に進展しているため、ここでは平成26年度の推進方策に焦点を絞って説明する。 これまでの研究成果を踏まえ、個別の自我と共同体における記憶、忘却、喪失、再生について、その全体像を現象学と解釈学の理論を応用して明らかにする作業を引き続き行う。当初の研究計画では、平成26年度は、スタインボックによる先行研究を詳細に検討することとしていたが、これを変更し、リクールの「物語的自己同一性」に関する文献研究を優先させる。 さらに、哲学の隣接領域のなかで、「文化的記憶」を巡るアライダ・アスマンの研究に集中的に取り組む予定である。彼女の指摘する「多種多様な記憶の承認」という問題は、まちに関する断片的なエクリチュールとイマージュから「小さな物語」としての「まちの物語」が作りうるのか否かという研究課題に強く関わっており、優先的に取り組むべきものであると判断している。
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