2016 Fiscal Year Annual Research Report
Phenomenological and hermeneutic research on memory, oblivion, loss and regeneration for the construction of "the theory of the city's story"
Project/Area Number |
25370024
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
神谷 英二 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (40316162)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | まちの物語 / 記憶 / 忘却 / 文化的記憶 / コメモラシオン / 消尽 / 固有名 / 弁証法的形象 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の研究として、デリダの言う「灰」を忘却から救出することができるかどうかを解明する作業を行った。これにより、永久に喪失しつつある「まちの物語」を忘却から守り、再生する理論的方法を哲学的に解明する上で、重要な知見が得られる可能性があるからだ。具体的には、まず、灰を忘却から救出しようとするときに現出する問題系を整理し、俯瞰する作業を行った。デリダの描写する灰の存在様式を見定めた上で、「灰それ自体を忘却するとはいかなることか」を問いに付した。研究の結果、灰は「自らを与えつつ、存在の彼方にある存在」であり、「忘却の忘却」であることが明らかとなった。さらに、ドゥルーズの「消尽したもの」とナンシーの「記憶しえない記憶」の議論を参照しつつ、灰を忘却することの意味を探究した。その結果、灰を忘却することは、絶対的な非-回帰の形象を喪失することであり、それによって、日付と固有名をもつあらゆる経験は特異性の中に閉じ込められ、いかなる反復も不可能になり、すべての経験は我有化の回路に閉じ込められることになることが解明された。 本研究の結果、個別の自我と共同体における記憶、忘却、喪失、再生について、その全体像を現象学と解釈学の理論を応用して明らかにすることが出来た。その過程で、共同体を共時的なつながりとしてだけではなく、世代性を踏まえた発生と消滅の弁証法的運動として記述する理論的基礎が得られた。それにより、まちづくりの基盤となり得る「まちの物語」のもととなるエクリチュールやイマージュなどの断片を「小さな物語」として再構成する理論構築に関する哲学的基礎が築かれた。こうした成果を踏まえて、次の研究段階として、個別の都市に関する記憶を含む、詩、日記、書簡、断章を手がかりとして、モザイクの思考により、そのエクリチュールのなかにベンヤミンの言う「弁証法的形象」を発見する方法を構築することが必要となる。
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