2013 Fiscal Year Research-status Report
命を与える・命をもらう関係にかんするフェアネスと個体性の観点からの哲学的研究
Project/Area Number |
25370035
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 狩猟 / 動物 / フェアネス / オルテガ / ヒューム / ノディングズ |
Research Abstract |
人間が他の人間や動物とのあいだで命を与え・命をもらう。人間の社会と生活を支える諸活動を、こうした関係のネットワークに位置づけ、意義をとらえ直すのが、本研究の大きな目的である。25年度の研究は、このネットワークの限界にあって、人間と動物の関係にかんする日常的理解の見直しを迫る、狩猟の問題に焦点を当てて取り組んだ。 そのさい重視したのは、一般的立場からの理論的考察や倫理的批判ではなく、狩猟者個人個人にとっての、狩猟というかたちをとった動物との関係の意義である。人間の社会の合理的な秩序に動物を組み込み、手段として利用する、現代における人間と動物の関係にとって圧倒的に優勢なあり方と異なって、狩猟者は、いわば動物から召喚されて人間的な秩序から離脱し、動物と同じ場で活動することが、この観点から明らかになる。これは、オルテガの古典的論考の基本的主張でもあるが、狩猟者の経験の文学上の表現を参照して確認する一方、ツーリズムとしてのハンティングという狩猟の堕落形態、自然の商品化との対比によってより明確に意義づけられる。これらの論点をまとめた論考は、『環境思想・教育研究』誌に発表した。 狩猟を含む闘争的な活動において、闘争の相手を単なる対象や手段として見るのか、活動の場を共有し、ある種の尊重に値するものとして遇するのかという問いは、フェアネスの問題の重要な要素である。本研究は、命を与え・命をもらう諸活動の考察にあたって、このフェアネスの観点を一貫して重視する。フェアネス概念の一般的整理のステップとして、ヒュームの正義論における社会の成員の競争的協働のあり方を参照する一方、生命活動の場をともにする者への配慮のあり方としてのノディングズにおけるケアとの対比でフェアネスを考察した口頭発表をWorld Congress of Philosophy(8月、アテネ)において行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的を達成するために研究の第1年度の重点とした狩猟にかんする考察について、ほぼ予定した成果を上げることができた。この間行なった関連研究のサーヴェイにより、狩猟と野生動物管理や発展途上地域における持続可能な開発との関係、環境倫理を考える上での身体を介した共同行為の重要性などについて、これまで視野に入ってこなかった知見を得た。他方、本研究の重要な柱であるフェアネス概念の検討は、一般的な整理の段階を大きく出ず、狩猟という特定の活動に即して展開し検討する点ではやや不十分であった。
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Strategy for Future Research Activity |
第1年度の研究がおおむね順調に進展したことを踏まえ、当初の研究実施計画通り、動物の個体的な命をもらう活動としての狩猟に続いて、人間の個体的な命が要求される状況として、戦争における人命の犠牲にかんする調査、考察を行なう。そのさい、国家が自国の戦争犠牲者を記憶し追悼することが考察の焦点になっている多くの先行研究を視野に入れながらも、「自国民」でない者の生命の喪失・剥奪に対する国家や個人の態度に注目して、関連研究のサーヴェイを行なう。より具体的には、「戦士の徳」ともいうべきものが含意すると想定される敵に対するある種の尊重のあり方や、自国の戦争行為によって生命を失った他国民・他民族を適切に記憶し追悼するとはいかなることか等の点にとくに注意を払う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者が3月下旬に病気入院したため、予定していた出張を取りやめ、旅費が執行できなくなった。 研究実施計画にそって、戦争における人命の犠牲にかんする調査、考察を行なう。そのさい、「自国民」でない者の生命の喪失・剥奪に対する国家や個人の態度、とりわけ日本から見たアジアの諸民族の犠牲に注目し、日韓台の研究者が参加する日本哲学会大会(札幌、6月)のインターナショナルセッション、日中哲学フォーラム(北京、9月)等の機会を利用して、アジアの研究者との連絡、研究協力をはかる。また、研究代表者が5月中旬まで病気入院したことにより生じた研究計画遂行の遅れを取り戻すことに留意する。
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