2014 Fiscal Year Research-status Report
命を与える・命をもらう関係にかんするフェアネスと個体性の観点からの哲学的研究
Project/Area Number |
25370035
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 信頼/信託 / ケア / 公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間が他の人間や動物とのあいだで命を与え・命をもらう。人間の社会と生活を支える諸活動を、こうした関係のネットワークに位置づけ、意義をとらえ直すのが、本研究の大きな目的である。 26年度の研究では、1. 前年度に主として取り組んだ狩猟の問題について、さらに考察を加えた発表を行なうのと並行して、2. 人間と人間のあいだで命を継承する活動に即して、A. C. バイアーの「信頼/信託」概念を適用し、異なったレヴェルの社会関係の積み重なり、絡み合いにかんする考察を進めた。 1 に関しては、狩猟における人間と自然の関係について、オルテガに代表される、ロマン主義的自然観にもとづく対立的なとらえ方を、「里山」という自然のあり方に即して見直した。その結果、地域社会におけるローカルな知のあり方、ローカルな知と科学知の結合を重視することが、農業被害や生態系破壊に対して実践的に取り組む上でも有効であるという見解に達した。この成果は、12月に、京都現代哲学コロキアムのワークショップにおいて発表した。 2 に関しては、新たな命を生み出す生殖と、命を支えるケアの活動を、両性の結合を軸とする家族的関係から、所有と契約によって特徴づけられる公共的な社会関係へと積み重なり絡み合う社会関係のネットワークのうちに位置づけ、そのことによって、人間の命そのものの問題を社会哲学の中心に置く考察の枠組みが提示できるという見通しが得られた。この点に関わる成果の中間的なまとめは、27年度にはいってから、応用哲学会(4月)、京都哲学史研究会(5月)で発表し、より詳細な展開を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画では、26年度には、戦争で「命を捧げる」ことの倫理性に関する研究を行ない、ついで、27年度に、新たな命を生み出し育てる活動に焦点を当てる予定であった。これに対して、実際の研究経過では、とくにケア論との関係で、家族と公共社会の関係を中心に考察することになった。しかし、子どもの親に対する当初は無条件の信頼から、公共の場で出会う見知らぬ人との関係の土台にある最小限の信頼にまでつながる網の目状の関係のあり方への注目は、命を与え・命をもらうという行為のさまざまな側面をとらえる共通の枠組みの設定を可能にする。このことによって、狩猟、戦争、ケア、フェアネスといった、本研究の一見多様に拡散したモチーフを、統一した構図のもとにもたらす見通しが得られたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画で重要なテーマの一つであった戦争で「命を捧げる」問題については、まず、生命、安全を含む、自分にとって重要な価値を持つものを、政府を信頼し、その裁量にゆだねることは、いかなる場合に合理的なのかを考察する。そして、それにもとづいて、政府の、市民の生命と安全に対する責任のあり方を検討し、生命の危険を含む活動への市民の動員(市民の側からすれば参加)の合理性と倫理性を検討する。さらに、国家の戦争行為と私的なテロ行為を含め、生活の場の安全についての習慣的な信頼を破壊する出来事への対処において、市民どうしの信頼と連帯が果たしうる役割について整理を行なう。 同様に、狩猟、ケアとフェアネスなど、これまでの考察の結果についても、信頼という観点からの再検討を施し、まとめるとともに、そこからさらに浮かび上がる課題の洗い出しを行なう。
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Causes of Carryover |
3月末に行なった出張の経費の出金が事務手続き上4月となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
戦争行為とそれへの動員/参加の倫理性と合理性について、先行研究のサーヴェイを行なうため、関係する研究者を訪問し、情報提供を受けるための旅費、文献収集の費用を支出し、研究目的の達成を図る。
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