2015 Fiscal Year Research-status Report
命を与える・命をもらう関係にかんするフェアネスと個体性の観点からの哲学的研究
Project/Area Number |
25370035
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ケア / 正義 / 信頼 / J. C. トロント / A. C. バイアー / ヒューム |
Outline of Annual Research Achievements |
人間が他の人間や動物とのあいだで命を与え・命をもらう。人間の社会と生活を支える諸活動を、こうした関係のネットワークに位置づけ、意義をとらえ直すのが、本研究の大きな目的である。 27年度の研究では、26年度に引き続き、人間と人間のあいだで命を継承する活動に即して、A. C. バイアーが提示する「信頼/信託(trust)」の概念を適用し、異なったレヴェルの社会関係の積み重なり、絡み合いにかんする考察を進めた。 この考察をつうじて、新たな命を生み出す生殖と、命を支えるケアの活動を、両性の結合を軸とする家族的関係から、所有と契約によって特徴づけられる公共的な社会関係へと積み重なり絡み合う社会関係のネットワークのうちに位置づけた。そのことによって、人間の命そのものの問題を社会哲学の中心に置く考察の枠組みを提示する試みをすすめ、応用哲学会(27年4月)、京都哲学史研究会(27年5月)で発表を行ない、それにもとづく論考を『立命館文学』掲載の論文として公刊した。(28年3月) この中では、母子関係を典型とする二者関係としてとらえがちなケアを、より広い社会の中に開き、ケア責任の分配をめぐる政治を問題とするJ. C. トロントの論を参考に、ケアと正義をともに支えるものとして、信頼のネットワークを位置づけた。また、こうした枠組みと照らし合わせることによって、トロントとバイアーがともに参照しているヒュームの、家族と公共社会をめぐる議論の再検討を試みた。ヒュームは、正義が社会の成員の利益の感覚に導かれた合意にもとづくと述べると一方、正義の萌芽が家族のうちに生ずるとも言う。この一見したところの不整合を解決するために、信頼のネットワークを介して家族と公共社会のそれぞれにおける人間と人間の関係を結びつける解釈を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年度の研究をつうじて、家族と公共社会の関係に注目し、子どもの親に対する当初は無条件の信頼から、公共の場で出会う見知らぬ人との関係の土台にある最小限の信頼にまでつながる網の目状の関係のあり方を検討することにより、命を与え・命をもらうという行為のさまざまな側面をとらえる共通の枠組が得られたと言える。これに対して、日常的な社会生活のコアにある信頼のネットワークの限界に属する事象、たとえば狩猟において動物の命をもらうこと、戦争において自分の命を危険にさらし、相手の命を奪うこと等については、行動の日常的な意味づけからの解放、予期せぬリスクの現前という両面から分析し位置づけていくことが考えられるが、具体的な考察を展開するに至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
信頼のネットワークに支えられた、ケアと正義の両者にかかわる人と人との関係の日常的了解の考察を、人と物との関係、つまり、何を自分のものとして所有できるか(物件への実践的アクセス)、何を思考や言語の対象として持ち得るか(物件への認知的・言語的アクセス)、等についての日常的了解に接続してゆく。そのことによって、同じ社会に属する人々とのインタラクションの上に、日常的経験の世界が構成されるあり方を示す。その反面として、そうした日常的了解の限界にあり、それを揺るがし覆す可能性のある事態として、人間的世界の秩序に属しないものと接する狩猟等の活動や、戦争などを位置づける可能性を検討する。そのさい、近世の思想家たちが、社会の発達(狩猟社会から商業社会へ)と戦争のあり方についてどう捉えたか、とくにアメリカ先住民についてどのように論じたかを参照する。
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Causes of Carryover |
研究の後期に位置づけていた、人間どうしが命を与え・命をもらう関係について、特に戦争における命のやりとりにかかわって、基礎的なリサーチをすすめてきた。しかし、多くの文献が戦争記憶や死者の追悼のあり方に焦点を当て、戦争における生命の危険を当事者の視点から考察していないため、課題の整理に時間がかかり、独自の知見を含む成果のまとめに至っていない。このため、補助事業期間の延長を申請した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
戦争はじめ、日常的な思考と行動を支える了解の限界にあり、それを揺るがし覆す可能性のある事態を視野に入れる研究の見通しをつける。そのさい、社会の発達段階と戦争のあり方の変化、とくに、先住民社会にかんする知見とそれに対する哲学的な評価を、近世の思想家にさかのぼって整理する。そのための諸文献の収集調査、研究発表のための旅費等を支出する。
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