2013 Fiscal Year Research-status Report
ヴァルター・ベンヤミンとドイツ歴史哲学の総合的研究
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25370037
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
森田 團 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40554449)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 歴史哲学 / 言語哲学 |
Research Abstract |
平成25年度は、ベンヤミンの言語哲学と歴史哲学について関係の考察を主題に据え、研究を進めた。その際、基盤としたのは翻訳の原理的な考察を通じて言語と歴史の連関についての思考がはじめて明確に表現されたテクスト「翻訳者の使命 Die Aufgabe des Uebersetzers」(1921)である。そこでベンヤミンは、生の概念を拡張し、言語を含めたすべてを生の概念から捉えようとしているが、そのようなことが可能であるのは、両者が同じ構造を持っているとみなされるからにほかならない。いやむしろ言語こそが生を理解するために範例的なものなのである。その理由を探ることによって、本年度の研究は生、言語、翻訳、歴史の連関を解釈することを試みた。 ベンヤミンにおいて翻訳とは原作という言語形成物の生を「表現」にもたらすことである。この表現においてのみ諸言語の本質があらわになるとされるのだが、その際、言語の本質とは、諸言語が唯一のそして同一の言語、すなわち「純粋言語」を志向するということに見いだされる。この意味で「表現」とは「純粋言語」という歴史の終わりに位置づけられる、究極の言語存在との関係をあらわにすることなのである。そして、ベンヤミンにおいて生は表現されるかぎりで歴史と関係するのならば、言い換えれば、あらゆる生の表現は歴史との関連において存在するのならば、生に表現の可能性そのものを与えるのが歴史であるということにになる。つまり、いわばここで歴史とは、あらゆる表現に意味を与える「仮設 hypothesis」として解釈可能なのだ。言語がその際、生の範例となるのは、言語がすぐれて表現として捉えられるからにほかならないだろう。 言語と歴史との内的連関は、このように翻訳という具体的な実践の考察にもとづいた独得の表現概念によって産み出される。この表現概念のより詳細な考察は、平成26年度以降の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画はおおむね順調に遂行された。「翻訳者の使命」の読解によって、ベンヤミンの言語哲学と歴史哲学が交叉する地点を正確に確定できたことによることが大きい。ゼミナールだけではなく、論文執筆と学会発表の機会を、本研究テーマのために利用できたことが、初年度の計画を遂行できたことの大きな理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、ベンヤミンの歴史哲学を同時代の歴史哲学との関係を精査することを通じて、その独特の意義を明らかにすることを試みる。とりわけディルタイの歴史認識論において、歴史がある種の想起の作業として捉えられていることを手掛かりに、想像力と歴史的認識、ならびにこの関係における言語の役割に注目する。このテーマに関しては以下の観点から分析を行う。 a. 「弁証法的イメージ」の概念と言語と関係の解明:この観点からは、ディルタイの歴史認識と想像力の関わりを出発点にして、とりわけベンヤミンの歴史認識の理論を、「想起 Eingedenken」と「弁証法的イメージ」の概念との内的連関に注目して読み解く。弁証法的イメージの概念は、ベンヤミン研究の進展にもかかわらず、十分に解明されたとは言えない。ここではこの概念を、ベンヤミンのイメージ概念との連続性を踏まえた内在的読解によって、また思想的な影響関係(とりわけコーエンとローゼンツヴァイクにおける微分の概念)を考慮して、最終的にはイメージの読解可能性(言語化)という観点から、解釈することを試みる。 b. ブロッホとの関係:『この時代の遺産』(1935)、『客観的ファンタジーについての哲学論文集』(1985)、そして『物質のロゴス』などで展開される未来を孕むイメージの概念を、ブロッホの唯物論と希望の哲学の関連のうちで解釈したうえで、ベンヤミンの〈弁証法的イメージ〉との関係を精査する。 bの観点からは、すでにブロッホについての論文を執筆済みであり、それにもとづいてブロッホとベンヤミンとの関係、ならびにaの課題を紀要論文と発表の機会を利用して追究していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
未使用額は当該年度に予定していた物品をほぼ予定通り購入したため生じた。 今年度の物品費に繰り越し、研究計画を円滑に遂行するために使用したい。
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Research Products
(3 results)