2015 Fiscal Year Research-status Report
ヴァルター・ベンヤミンとドイツ歴史哲学の総合的研究
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25370037
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
森田 團 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40554449)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ライプニッツ受容 / 無意識 / 先取 / 志向性 / 言語哲学 / 歴史哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、ベンヤミンとライプニッツ哲学との関係に取り組む計画を実行に移した。 まずベンヤミンが学んだリヒャルト・ヘルベルツのライプニッツ論を媒介にすることによって、ベンヤミンのライプニッツ受容を正確に測ることを試みた。ヘルベルツは心理学的哲学の立場から無意識概念(ならびに微小表象の概念)の再評価を試みていた。ベンヤミンは一貫して心理学的哲学からは距離を取っていたものの、言語哲学においては志向性の概念を用いており、この概念はベンヤミンとライプニッツ哲学と関係を読み込む手がかりの概念のひとつとなる。 この点に関しては、平成27年度に発表した論文において、ライプニッツとの関連までは踏み込めなかったものの、まずベンヤミンにおける志向性概念の基本構造を明らかにすることを試みた。この成果を念頭に置き、さらにライプニッツ哲学におけるモナド論と言語論(とりわけドイツ語論)との関連を考察するなど、ベンヤミンとライプニッツとの関係をより精緻に追うための準備に努めた。焦点になるのは、やはり言語における志向されるものの先取という志向性が孕む問題であり、ここに言語における先行性への問い、ライプニッツが微小表象や無意識の概念において取り組んだ問いとの関係が見出されるのである。この主題については、来年度に業績としてかたちにできればと考えている。 平成27年度9月より在外研究にてドイツ・フランクフルトに滞在しているが、当該年度後半は、上記課題に加え、前年度のイメージの問題をより広範な哲学的史的な視座から研究するための文献調査を行い、とりわけ十九世紀から二十世紀初頭にかけてのイメージ論ないしファンタジー論を精査した。同時に平成28年度の計画を前倒しにし、ベンヤミンの歴史哲学と終末論の関係について考察するための準備研究として、ヤーコプ・タウベスの『西洋の終末論』に集中的に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、前期に開講した大学院講義において、ベンヤミンの言語哲学を取り上げ、「言語一般および人間の言語について」、ならびに「翻訳者の課題」を集中的に扱い、ライプニッツとの関係なども論じた。ここで得られた認識を加えて、平成26年度に行った発表をもとに「翻訳者の課題」を主題にした論文を執筆し、ベンヤミンの言語哲学における基本概念、すなわち志向性、先取性、純粋言語、歴史などのあいだにある連関を考察した。 平成27年度後半は、年度前半で得られた知見を生かし、ライプニッツとの関連を踏まえた文献調査を行った。9月から在外研究でドイツ・フランクフルトのマックス・プランク経験美学研究所に滞在しているが、充分な研究時間を割くことができたため、今年度の計画のみならず、前年度に課題としたイメージをめぐる問いに関連する文献もさらに精査し、充実した基礎研究を行うことができた。また平成28年度に計画していた歴史哲学の研究にも前倒しで着手し、平成28年度の研究計画といままでの研究との関連づけ、さらには四年間の研究の締めくくる見通しを得ることを試みた。 当初の計画以上に進展しているとしたのは、前期において大学院で個別テーマに集中して取り組めたこと、後期は在外研究にて課題の研究に時間を割くことができ、前年度、来年度の研究との関連づけを行うことができたことに拠る。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、いままでの研究成果を基盤にしながら、ベンヤミン哲学におけるイメージと歴史(弁証法的イメージへの問い)、ならびに言語と歴史との関係をそれぞれ個別に考えるだけではなく、この二つの問題系を総合する考察にも踏み込む予定である。 平成28年8月までの在外研究期間を利用して、ベンヤミンの言語哲学とライプニッツ哲学との関連の研究を深めるとともに、それに基づいた言語哲学と歴史哲学の関係を、広い哲学史的視座のみならず、20世紀前半の歴史哲学的思考をも視野に入れながら究明することが、平成28年度前半の研究の主眼である。年度後半においては、大学院の講義また論文執筆を利用して冒頭に述べた課題をある程度かたちにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成27年度9月より在外研究にてドイツ・フランクフルトにあるマックス・プランク経験美学研究所に客員研究員として滞在している。予算執行にあたって、領収書の海外から日本への送付などの不確定要素を完全に排除することができないことを考慮し、平成27年度後半は、研究計画を遂行するうえで最低限の文献購入に予算を使用したため、当初の予算額との違いが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度8月末までの在外研究のため、ドイツ滞在の利点を生かして研究計画に応じた文献などに予算を使用したい。予算執行にあたっては、安全を期して、帰国後一括して処理する予定である。
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