2014 Fiscal Year Research-status Report
明清教派系宝巻盛衰の研究―武神と聖母神信仰をめぐって―
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25370040
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
磯部 彰 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (90143841)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 『西遊記』 / 『昇平宝筏』 / 西大乗教 / 『銷釈孟姜忠烈貞節賢良宝巻』 / 嘉靖刊本『山海関志』 / 中国宝巻国際シンポジウム / 武神系教派系宝巻 / 女神系教派系宝巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、武神系の宝巻については、『護国佑民伏魔宝巻』(伏魔宝巻)とともに、『清源妙道顕聖真君一了真人護国祐民忠孝二郎宝巻』(二郎宝巻)を取り上げ、その内容の概要を作成し、その書誌研究を進め、版本は一種で印刷に先後があると導き出した。同時に、その故事性を摘出すべく、『西遊記』などの小説、『昇平宝筏』などの戯曲に含まれる故事との相関性も検討し、伏魔宝巻と同様に故事性には乏しいが、民間伝承の反映がある点を検出した。 民間教団との関係では、伏魔宝巻、二郎宝巻、女神系教派系宝巻の『霊応泰山娘娘宝巻』がいずれも西大乗教の経典として作られ、北京で印刷された点、各宝巻では、くり返し朝廷への忠誠と外寇への功果などが織り込まれ、その成立に山東方面の状況が反映していることを導き出した。これに対し、『銷釈孟姜忠烈貞節賢良宝巻』(孟姜宝巻)は、全体が故事系宝巻の体裁をとり、西大乗教との関係は不明であるものの、その伝承が嘉靖刊本『山海関志』に記録されていることを発見し、山東という地域や無為教系教団との関係を更に深く検討すべきことに気づいた。 一連の成果の一端を、平成26年10月に揚州大学で開催された中国宝巻国際シンポジウム及び中国俗文学学会2014年大会に招待論文として「明代教派宝卷的文学故事与清代故事宝卷的関系」(「明代教派宝巻の文学故事と清代の故事系宝巻との関係―西大乗教の宝巻五部に関連して―」)を提出した。国際学会には都合により参加せず、論文の提出にとどまった。 本年度の研究では、武神系宝巻を作成した西大乗教が山東方面に拠点を置きつつも北京へ進出したこと、東大乗教や無為教などとは、宗派的相違というよりも地域による呼称の相違の可能性が窺われ、宝巻の内容から見る限り、各教団は相互に連繋していて、厳密な意味での思想信条の相違は顕著ではないという仮説を導き出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
武神系教派系宝巻のうち、本研究で対象とする『清源妙道顕聖真君一了真人護国祐民忠孝二郎宝巻』及び『護国佑民伏魔宝巻』については、全体の要約及びその内容の特色、またいずれの刊行地も北京であることを解明するとともに、後者の伏魔宝巻は清代に明刊本を継承しつつ、ほぼそのままの形で印刷されていることを清刊本からつきとめた。また、二郎宝巻には複数の明刊本が伝存するが、初印、後印の区別はあるものの、版本としては同一であることを解明し、書誌的研究はかなり進展している。 一方、当初の計画では平成27年度に主に行なう予定であった女神系教派系宝巻の内、泰山の女性神を扱う『霊応泰山娘娘宝巻』は、その要約が終了し、内容に故事性が乏しい点を見出すとともに、眼光娘娘などの女性神が泰山娘娘を頂点とするヒエラルキーを構成していることを導き出すなど、計画は予定よりも進展している。その結果、泰山娘娘宝巻に対して姉妹宝巻と見られる『天仙聖母源流泰山宝巻』などの泰山娘娘を主人公とする他の宝巻との関係、後者の宝巻の故事性の有無についての検討が必要となった。この点は、当初の計画に加えて平成27年度に女性神系宝巻を扱う中で取り上げ、更に詳しく検証する。他方、孟姜女を主人公とする『銷釈孟姜忠烈貞節賢良宝巻』は平成27年度の研究対象であるが、既にその分析に入り、孟姜女をめぐる民間伝説史との関連を検討中であるが、その伝説は広く存在するが、古くから山東省との関係も深い点であることを確認している。 本研究で取り上げた明刊宝巻の内容や特色はほぼ摘出し、今後、民間伝説との対比に移るが、当初の計画を着実に進める中で、新しい検討課題も加わり、より広い視点で研究が進行する状況にあることから、当初の計画に照らすと、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度では、女性神を扱う女神系教派系宝巻を重点的に取り扱うが、当初の計画には取り上げなかった東嶽信仰を反映する『東嶽泰山十王宝巻』を泰山信仰との関連で取り上げるとともに泰山娘娘宝巻との関係について分析する。また、泰山娘娘宝巻については、補足的に天仙聖母宝巻の検証、女性神の代表である観音については故事性の高い『香山宝巻』、そして成道後の観音が子育て観音に転化することを描く『銷釈白衣観音菩薩送嬰児下生宝巻』も取り上げ、明代の『南海観音菩薩出身修行伝』などの小説や宗教故事の性格分析を行ない、観音信仰とは別の観音をめぐる故事系宝巻の性格について解明する。媽祖神についても、小説『天妃伝』や関連宝巻の故事や書誌研究を補足する。 また、当初よりの研究対象である教派系宝巻が西大乗教の経典という位置づけにあることから、西大乗教や呂皇姑、北京の保明寺(顕応寺)及び経鋪との関係について分析し、東大乗教や無為教・黄天道、円頓教など民間諸教との相互関係を追求しつつ、清代にいかなる形で継承されたか、とりわけ、二郎宝巻などの教派系宝巻が滅びる中、西大乗教の経典である伏魔宝巻が生き延びた背景を考える。平成26年度の研究過程で、清代、教派系宝巻が故事系宝巻に取って代わるような図式が極めて一面的であった点が浮かび上ってきたので、故事色の強い孟姜宝巻や香山宝巻、反対に教派色の濃い伏魔宝巻がそれぞれ明代、清代に存在していたことを顧みて、信仰と神祗のあり方についても考証し、故事系宝巻と教派系宝巻の流れやその性格を把握することに努めたい。これらの検証を通して、教派系宝巻の特徴を中心とした論文をまとめる。
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Causes of Carryover |
中国の揚州大学で開催された中国宝巻国際シンポジウム及び中国俗文学学会2014年大会(10月)に参加して研究成果の発表と宝巻に関する情報交換をする予定にしていたが、日程の変更等で参加出来ず、論文投稿のみとなったため、計上していた旅費は留保されることとなった。また、北京で予定していた保明寺や国家図書館などへの調査旅費が、中国人民大学及びアメリカコロンビア大学が開催した国際会議の招待を受けたため、一部の経費が不要となったことから、やはり留保分が生じた。その反面、データ処理に際し、予定額以上の謝金が必要となり、留保分から差し引いた結果、多少の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には、羅教民間教団の文献調査及び羅教の祖師関連資料調査を当初よりも早く、平成27年度に実施すること、中国・韓国所蔵の宝巻、日本国内外の中国小説・戯曲各版本に関する資料調査、8月に韓国ソウルで開催される国際学会に参加し、発表も予定されているので、繰り越し額を含む経費を旅費に充当する。また、宗教資料のデータ処理も必要なため、一部は謝金にも使用する。
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