2013 Fiscal Year Research-status Report
東アジア仏教の大乗戒根本経典『梵網経』の最新の写本・版本情報に基づく校訂本作成
Project/Area Number |
25370045
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
船山 徹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70209154)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 梵網経 / 校訂 |
Research Abstract |
初年度である本年は3年にわたる研究環境の基礎構築として、『梵網経』に関するデータ(先行研究および既存の版本写本)の整理と、研究体制の基礎確立に時間を費やした。具体的には以下の諸点を実施した。 1.方法論的基礎付け:『梵網経』の写本研究に最適な方法論を構築するため、15種類以上の写本・版本の変遷の過程を示すためにはどのような形態の校本を作成可能であるか(あるいは作成するのが望ましいか)という点を、紙媒体出版の場合とオンライン電子出版の場合それぞれについて、複数の可能な方法を想定した上で、それらのメリットとデメリットを検討した。これによって、従来通りの紙媒体での校本を出版する場合として、伝承上の特に大きな変化を示す4,5種類程度の写本・版本を選定し、それらを容易に比較可能な形態で示すという形が最適であろうという結論に至った(詳細は割愛)。電子出版の可能性についても、想定される問題を数人の専門家と議論した結果、まだ検討の余地は多いものの、現実的な方法が見えつつある。 2.未見写本の実地調査:これまで未見であったフランス国家図書館の関連写本を実見し、不明だった点を明らかになし得た。 3.写本版本に関する電子データ構築:既に有している電子データに加え、今年度は開元寺版、房山石経の唐代拓本の詳細な電子データその他を新たに作成し、校本作成の作業を開始した。 4.研究途中経過の報告:複数の研究をまとめたが、とくに直接的関係を有する報告として、これまで全く未開拓であった高麗版初雕本『梵網経』に関する問題点を整理し、英文論文にまとめた。また別に、梵網経の最初期の形態について我々は何を知っているか、そしてどこに問題があるかという点に関して「『梵網経』の初期の形態をめぐって」と題する和文論文をまとめた。このほか、『梵網経』校本の電子版作成における方法論的基礎付けとして、研究集会における口頭発も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二つの新たな視点から途中経過を報告する論文をまとめたこと。研究申請の段階で3年間の最大の問題かもしれないと想定していた校訂本作成の具体的形態について、その目途をたてることができたこと。これまで未見であったフランス国立図書館所蔵の写本を綿密に調査することができたこと。多くの先行研究を蒐集し得たこと。以上の諸点により、初年度の研究は順調に進展したと言うことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
既に定めた校訂本作成のガイドラインに基づき、具体的な校訂作業を推進することが最大の、そして主要な研究推進方策である。初年度はその基礎を構築したが、現時点ではまだ手つかずの事柄も多い。従って、第一に、電子化をすませていない諸写本がまだ数種類残っているので、それらの電子データを作成し、まとめる作業をこれからも地道に行う。第二に、上記作業と並行して、それとは別に、方法論の構築に関わる事柄として、写本にもとづく漢語仏典の校本作成を行う際に注意すべき点に関する知識を、敦煌写本研究者との連携によって深める必要がある。第三に、これまでの研究の中にもまだ未入手の先行研究があるので、ひきつづき本年度も先行研究確認の作業を継続する。
|