2014 Fiscal Year Research-status Report
東アジア仏教の大乗戒根本経典『梵網経』の最新の写本・版本情報に基づく校訂本作成
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25370045
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
船山 徹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70209154)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 梵網経 / 疑経 / 偽経 / 版本 / 写本 / 大蔵経 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目である本年は、『梵網経』の校訂作業を進める上で実質的に中核となる部分について作業をすすめることができた。具体的には、各種木版大蔵経における文字の異同を調査し、作業の結果を電子ファイルに入力した。そして木版成立以前の時代の状況を探る作業として、中村不折旧蔵古写本と中国国家図書館所蔵の敦煌写本のうち、最も古形をとどめると考えられる写本を選定し、その解読と文字の確定を終えた。また、フランス国家図書館に所蔵されるペリオ将来敦煌写本に収められる『梵網経』については調査をほぼ終了するに至った。さらに、早期の注釈文献で前提とされている経典の文言も精査し、写本や木版との異同を調べた。その結果、特に天台智顗『菩薩戒義疏』に、最も古い経典文言を基にして注釈する箇所があることをつきとめた。 本年度の研究成果として明記すべきもう一つの点は、校訂本を紙媒体で出版するために確定すべきレイアウトおよび各ページのコンテンツに関して方法論の原則を定めるに至ったことである。これにより、出版に向けての具体的作業方針の原則が定まった。 また本年は敦煌写本研究者のタイザー教授を招へいし、『梵網経』写本校訂の際に注意すべき点を討議した。 主要な研究成果として、梵網経の失われた原形を復元する研究として「『梵網経』の初期の形態をめぐって」を発表した。さらに近年新たに公表された高麗版初雕本に関する研究として、"The Fanwang jing (Scripture of Brahma's Net) in the First Edition of the Korean Canon" を英語で出版した。これらの成果により、『梵網経』の原形を知るためにどのような文献資料があるかを整理し、木版印刷の中でも今まで実態を知ることのできなかった高麗版初雕本を精査したことで各種木版本の特徴をほぼ確定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は『梵網経』の校訂作業のうち、予定していた箇所をほぼ完了した。また、校訂本作成にあたって懸案であった校本の作成方法とレイアウトに関してもほぼ原則が定まった。『梵網経』の最初期の形態を知るための諸資料と、それらから知られる具体的特徴を二つの論文にまとめ、公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年に当たる平成27年度は『梵網経』校訂本の完成にむけて、校訂本出版のための具体的諸作業を推進する。具体的には写本と木版の文字情報の解読ならびに電子入力、そして校本最終形の確定である。また、『梵網経』の成立と密接な関係にある『仁王般若経』の内容解読と版本の諸問題を検討し、『梵網経』の成立と発展に関与する諸点を具体的に整理し、その結果を校訂本の出版に反映できるよう心懸ける。
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Causes of Carryover |
申請者は不測の交通事故による健康損傷にともない、6ヶ月間休職せざるを得なくなった。そのため、その間に実施予定していた海外での研究報告および資料調査を遂行できなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
第二年度に遂行できなかった資料調査および研究報告は第三年度に遂行し、三年終了の時点で当初予定していた全ての作業をつつがなく実施する予定である。それと共に一部を研究協力謝金として使用し、『梵網経』校本の出版を十全の体制で行えるように計画を進める。
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