2016 Fiscal Year Research-status Report
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25370058
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
後藤 純子 (阪本純子) 宮城学院女子大学, 付置研究所, 研究員 (60275237)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インド哲学・思想 / 韻律学 / インドアーリヤ語 / インド文学 / 仏教学 / ヴェーダ学 / 言語学 / 音楽理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,言語学と文献学の両面から,古・中期インドア―リヤ語文献における韻律の実態を調査し,歴史的展開を解明することを課題とする。これまでに本研究者が蓄積した原典の韻律分析結果を再検討し,リグヴェ―ダから中期インド語最終段階にあるアパブランシャ文献までの韻律を対象に,その形成・発展過程を具体的かつ体系的に著すことを目指す。第4年度である平成28年度には以下の研究活動を行った。 1.27年度に引き続き,本研究代表者がこれまでに読み集めてきたパーリ語および仏教梵語文献の韻文を再検討し、韻律分析と原典批判を行った。 2.27年度(2016年1月)の招待講演「『真実』を『信』に献供する―古代インド祭式から念仏へ―」に基づき,大幅に加筆した論文を28年度「真宗文化」第26号(光華女子大学)に掲載した。当論文では,仏教梵語文献の中でも,写本および異読の多さと言語の特殊性により,韻律分析が特に困難である「無量寿経」の韻文を取り上げて,韻律と言語の特性に基づき写本伝承を比較検証し,そこから導かれる原典読解が従来の校訂・訳と大きく相違し,思想内容の理解に影響を及ぼすことを具体的に示した。 3.2017年9月に日本印度学仏教学会学術大会(東京大学)にて「新月祭と祖霊祭の原型:リグヴェーダ X 85,X 14-16」を口頭発表した。これに基づく論文「新月祭(および祖霊祭)の原初形態 ― Rgveda X 85とAtharvaveda VIII 10を中心に―」を『論集』(印度学宗教学会)に掲載した。本論文は「婚姻の歌」として有名なリグヴェーダ X 85 の韻律分析に基づき,長大な讃歌を構成する諸層を区別し,思想内容の相互関係を明らかにし,「毎月の新月祭とソーマ献供の結合」,さらに「牛の供儀を伴う太陽と月の聖婚儀礼としての年に一度の新月祭」という,従来の解釈に見られない重要な意味を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の対象は,研究者が過去45年間の研究生活において収集し,既に一度は検討・分析した韻律文献である。しかしながら,研究者自身の知識と経験の積み重ねにより,また古代インドの文献および言語の研究全般の発展にともない,今回,改めて個々の原典を検討し考察すると,新たな解釈に気づき,以前と異なる結論に至ることが往々にある。その結果,当初の予想以上に,一つ一つの韻文の分析と原典批判に手間取っている。 他方また,韻律分析の進化が,テキストの読みの変更をもたらし,思想内容の理解に関しても新たな理解を引き起こすことが稀ではない。 韻律,言語,文献,思想という多次元での分析・考察が相互に緊密に絡み合う中で,原典の再検討が,韻律のみならず,言語・文献・思想の研究においても重要な新発見をもたらし,後者の研究成果の発表も頻繁に必要となった。その結果,本研究課題である韻律研究のためのエフォートが,当初の想定より大幅に落ちてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画で予定していた研究対象の中,ヴェーダ語・パーリ語・仏教梵語の韻律文献はおおむね終了したが,プラークリット・アパブランシャ文献、叙事詩・プラーナ文献が残っている。最終年度である29年度に,残る文献群をすべて計画通りに広く精査し,かつ,研究成果の全体を原稿にまとめるのは,時間的に不可能である。従って,言語的な相違の大きいプラークリット・アパブランシャ文献の検討は最小限に留め,叙事詩・プラーナ文献の韻律検討を規模を縮小して行い,最後に全体をまとめ,古・中期インドアーリヤ語文献の韻律の発展を体系的に把握する。日本語と英語での出版を期して,その基盤となる原稿を準備する。
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Causes of Carryover |
当該年度にベルギー(リエージュ大学)で開催される国際会議“To the Sources of the Indo-Iranian Liturgies”に前年度より招待されており,講演する予定であったが,直前にベルギー国際空港においてテロが発生したため,出席を見合わせた。海外出張を取りやめたため,そのために予定していた費用が残った。また海外出張に合わせてノートパソコンの購入を予定していたが,これも延期したため,当該費用が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度に開催されるタイ(バンコック)での仏教学会に招待されているので,その海外出張旅費に用いる。またノートパソコンおよびデスクトップパソコンが古くなり故障が起こるので,その購入にも用いる。
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Remarks |
研究成果に関するwebページ:阪本(後藤)純子の書斎 https://sakamotogotojunko.jimdo.com/
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