2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370063
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
白館 戒雲 大谷大学, 文学部, 名誉教授 (10179062)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 現観荘厳論 / 二万五千頌般若波羅蜜経 / タルマリンチェン / ハリバドラ / 心髄荘厳 / 菩提道次第大論 / セラ・ジェツンパ / 般若学 |
Research Abstract |
『現観荘厳論』全8章のうち、第1章「一切相智性」は、全体を俯瞰する最重要の章であるが、冒頭の概論のあと、発心、教誡、順決択分、種姓、所縁、所期、被鎧行、発趣行、資糧行、出離行の十項目からなっている。本年度は「教誡」の部分について和訳し、詳しく研究した。その方法としては、まず、その部分でのタルマリンチェンの『現観荘厳論の釈論・心髄荘厳』を、その直接的註釈対象であるマイトレーヤの『現観荘厳論』(第1章第21偈から第23偈)、ハリバドラの『註釈・明義』と合わせて翻訳した。その上で、『心髄荘厳』の直接的な先行文献であるツォンカパの『現観荘厳論の註釈・善釈金鬘』と、『心髄荘厳』を承けて解説するセラ・ジェツンパの『現観荘厳論第一章の総義』の該当部分より、それらのうち7割ほどを翻訳して、各所における論題、異説などを浮き彫りにした。さらに、『現観荘厳論』が項目付けしている根本典籍である『二万五千頌般若波羅蜜経』についても、その各所における本文が分かるように、調査し、註記した。 この「教誡」の部分は、協力者の藤仲孝司氏の下訳に基づき、研究者自身との読み合わせ、指示、調査、検討を行い、徹底的に和訳、研究することができた。 続いて、第1章の残りの部分と、第2章(31偈頌)のうち約半分について同じく、藤仲孝司氏の下訳に基づき、研究者自身との読み合わせを行って、今後の研究の基盤を造った。なお、研究協力者の藤仲氏は、タルマリンチェンの『心髄荘厳』全部の下訳を完了した。 副次的研究として、ツォンカパの『菩提道次第大論』の和訳研究に取り組んだ。『同論』のうち、発心、六波羅蜜、四摂事、止観概論、止住は、すでに校訂版と和訳を発表しているが、それら全体を註釈文献を参照して徹底的に見直した。そこで得られた知見をもってさらにインド撰述、チベット撰述の経論を調査した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期的な展望としては、『現観荘厳論』、『註釈・明義』、『釈論・心髄荘厳』を全訳し、それに先行する『善釈金鬘』、それを承けたセラ・ジェツンパの註釈の主要部分、そして根本的典籍の『二万五千頌般若経』の根幹部分を翻訳し、公刊する予定である。2013年度は実質的にその一年目から二年目に当たるが、これまでに発表した「発心」「教誡」の部分は、セラ・ジェツンパの註釈を基準と考えるとき、全体のうち、約15パーセントほどの分量である。予定から考えるとやや遅れ気味の感もあるが、これまでの研究により基本的な研究方法が確立できたので、またこれまでに発表した部分は文献の中でも最も特徴的な教義が集中しており、伝統的にも最も難解であると考えられているが、これ以降はそれらをいかに配置するかという問題はあっても、新しい教義はさほど多く出てこないことを考えるなら、まずまずの進捗状況である。 また、当初予定していた註釈文献のうち、『善釈金鬘』に論及されたインド撰述のものはかなり丁寧に調査することができた。チベットのロデン・シェーラプなど比較的早い時期の註釈文献、あるいは、タルマリンチェンが批判している一世代前のサキャ派の学者ニャボンや、同時代のサキャ派の学者ロントンなどの文献についてもまた、『善釈金鬘』やセラ・ジェツンパに言及される範囲中で、調査することができた。ただし、『現観荘厳論』に関するタルマリンチェンが記した他の綱要書や憶え書、ケードゥプ・ジェの註釈、ゲルク派の他の註釈は、紐解くことができなかった。研究協力者の藤仲氏は、タルマリンチェンの『心髄荘厳』の下訳を完了させた。これもおおよそ予定どおりである。 また副次的研究としての『道次第大論』の和訳研究は、同書の和訳研究の第2巻として2014年9月の出版を目指している。すでに出版社に入稿しており、現在ゲラの校正中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
すでに読み合わせの終わった第1章の残りの部分と、第2章「道智性」のうち約半分について、これまでと同様に、藤仲氏に『善釈金鬘』の主要部分とセラ・ジェツンパの大部分を翻訳していただき、その読み合わせ、論点整理を協同で行う。これまでの部分の研究を通じて一定の研究方法が確立できたので、それをより効果的に進められると思われる。その文献の内容は、〔その構成要素となる〕依、〔三乗の道としての〕道智の自体という二項目を通じて、教化対象者たちを順次、解脱と正覚へ導くことを願う利他行の実践者である菩薩にとっての導きの智恵を、解明する。また第3章以下についてもまた、氏の下訳に基づき、研究者自身との読み合わせを継続する。タルマリンチェンの『心髄荘厳』については、現在、週1回の3時間ペースで読み合わせを行っており、この調子で継続できるなら、ほぼ一年後には、読み合わせが終了するのではないかと思われる。それ以降は、それらの部分についても、『善釈金鬘』の主要部分とセラ・ジェツンパの大部分を翻訳していただき、その読み合わせ、論点整理を協同で続ける予定である。 残りの部分は、第3章「一切智性」、第4章「一切相現等覚」、第5章「頂現観」、第6章「次第現観」、第7章「一刹那現観」、第8章「法身」、第9章補遺である。 また、第1章の冒頭の『現観荘厳論』全体に関する概論の部分は、すでに兵藤一夫氏により2000年翻訳研究が発表されており、そこではセラ・ジェツンパによる綱要書から主要項目の定義が紹介されているが、『善釈金鬘』やセラ・ジェツンパの註釈文献に基づいて詳細な研究はまだ為されていない。いずれ『心髄荘厳』の残りの部分の翻訳研究が完成した時点で、すなわち『善釈金鬘』やセラ・ジェツンパの翻訳研究が一段落した時点で、最後にこの部分に着手し、その俯瞰的な意味を再度検証したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大乗の教理全般、あるいは僧伽の規則を特に漢訳の経典、論書、律文献を基本に置き、それに南方のパーリ仏教の文献を加えて調査研究した古典的な業績に、平川彰博士の著作集がある。これはシナ、日本での研究史をも踏まえつつ、近現代の文献研究の知見を加えたものであり、幾つかの批判的研究にとっても出発点となった勝れた内容を誇っている。本研究では、まず対象となるインド、チベットの主要文献の翻訳研究に努めるが、それをさらに広い視野で補完し、検証したいと考えている。2013年度には、平川彰博士の著作集より8冊程度の購入を考えていたが絶版となっていることが判明し、予算が未使用となった。また『善釈金鬘』全体がスパルハム氏により全4冊に英語訳されて出版されたので、購入を検討したが、それらが1冊20000円ほどの高価なものであるにもかかわらず、英語への翻訳中心であり、調査分析の内容が乏しいとの情報を得て、購入を延期した。 仏教の学術研究書は、絶版後に古書として数倍の価格が設定される事例が、少なくない。しかし、その後、インターネットで各地の古書店を調査した結果、平川博士の著作集は単品として、出版当時の定価と比べて2、3割程度高くなっているが、1冊10000円から12000円程度の価格で購入可能であることが、判明した。そこで、新年度にはそれらをまとめて購入することを考えている。また、これらと同様に参考図書を幾つか購入するが、それらを利用した比較研究は、本研究での翻訳研究が一定の成果を収めてから着手することがほとんどである。それらに基づく比較研究はできなかったかわりに、本年度には『心髄荘厳』の下訳と読み合わせをより多く行って、その分、前進することができた。参考図書の購入時期は遅くなったが、それらを活用する下準備は進んだので、現時点での影響は無いと考えている。
|
Research Products
(1 results)