2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370065
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Research Institution | Chikushi Jogakuen University |
Principal Investigator |
宇野 智行 筑紫女学園大学, 文学部, 教授 (40331011)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ジャイナ教 / 異端 / 教団分裂 / ニフナヴァ・ヴァーダ章 / ジナバドラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度より継続して『ヴィシェーシャーヴァシュヤカ・バーシャ』「ニフナヴァ・ヴァーダ章」の読解作業、同注釈文献コーティ・アーチャールヤ注の電子テキスト化作業を行った.さらに、『ウッタラ・アディヤヤナ・ニルユクティ』の教団分裂記事に関わる箇所の読解、およびその注釈文献についての電子テキスト化を進めた. 「ニフナヴァ・ヴァーダ章」第4章においては断滅論が主題となるが,その論争中に仏教説が現れ,いわゆる「相続」(santana)説についての言及があることが明らかとなった.ジナバドラは,彼の在世時に流布していた仏教説を異端説と同類と看做し,より哲学的な論争記録に改変していることが窺われる.また,『ウッタラ・アディヤヤナ・ニルユクティ』に対する注『ヴリッティ』においては,いわゆる「滅不持因」に基づく論証が紹介されており,ジャイナ教の異端論争は内部論争を超えて拡大していることが明らかとなった. 『バガヴァティー・スートラ』におけるジャマーリ記事に加えて,「ニフナヴァ・ヴァーダ章」では他の異端者の後日談記事が付加されている.例えば,第4章のアシュヴァミトラは教団追放の後,町の警備兵により泥棒扱いを受け,元のサンガに帰参して再出家する.第6章においては,異端者ローハグプタは宮廷論争に破れた後,師より灰の入った瓶を顔に投げつけられて教団追放され,六句義説をより推進してヴァイシェーシカ学派を創始する.このような後日談の増広は,当然のことながら「ニルユクティ→バーシャ→チュールニ→ヴリッティ」という注釈文献の変遷拡大に従っており,後代のヴリッティ文献類で最高潮に達する.ただし,いずれの文献においてもサンガ追放となる戒律的根拠や帰参についての手続きなどについては全て省略されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「ニフナヴァ・ヴァーダ章」読解作業は,当初予定の6割程度の進捗となった.その理由としては,当初読解対象として計画していなかった『アーヴァシュヤカ・チュールニ』が異端・分裂についてかなりの情報を提供することが明らかとなったためである.『アーヴァシュヤカ・チュールニ』(ジナダーサ著.7世紀頃)は,マラダーリ・ヘーマチャンドラ著『ヴィシェーシャーヴァシュヤカ・バーシャ・ブリハッドヴリッティ』やシャーンティ・アーチャールヤ著『ウッタラ・アディヤヤナ・ヴリッティ』などの散文サンスクリット注釈文献に多大な影響を与えており,ジナバドラ以降の異端説記事の方向性を決定づけたと考えられる.今後,同文献の精確な読解作業により,異端記事の文献史的変遷がより一層明らかになることが期待される. なお,仏教文献におけるジャイナ教団分裂記事については,資料収集とテキスト電子化作業だけに留めた.前年度の読解作業により,仏教文献にはジャイナ教が記録する8回の分裂に言及する箇所が確認出来なかったためである.今後は,8回の具体的分裂を離れ,仏教とジャイナ教両者の律文献の精査により教団分裂(破僧)の比較作業が求められるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は「ニフナヴァ・ヴァーダ章」とりわけ第8分裂(シヴァブーイ)の読解を継続すると共に,(1)『アーヴァシュヤカ・チュールニ』『ウッタラ・アディヤヤナ・ヴリッティ』などの散文注釈資料の読解分析,(2)「衣」などの不所有戒をめぐる空白両派の律文献の読解,(3)ジナ伝文学作品中の異端記事の読解,(4)関連資料の網羅的なテキスト電子化などの作業を行う予定である.空白分派と看做される第8分裂は,「衣」「托鉢」「払子」の所有についての内部論争と密接に関わるものであり,本研究にとって極めて重要な考察対象である.上記(2)は,本研究のキーとも言える作業であり,研究協力者との輪読研究会を精力的に進めたいと考えている.
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Causes of Carryover |
校務繁多および先方との日程都合により予定していた研究会開催が困難になったため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度は校務に関わる事由が解消したため,研究代表者の出張についての難がかなり軽減したと言える.26年度に開催が困難であった研究会の頻度を高め,精確なテキスト読解のための旅費に補助金をより一層活用したい.なお,本研究に関わる資料について,網羅的な収集とおよび収集し得た全テキストの電子化作業を完了したいと考えている.したがって,27年度中に可能な限りテキスト入力を進めるため,謝金を有効に活用する予定である.
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