2016 Fiscal Year Research-status Report
サンスクリット語古典のペルシア語訳とインド古典諸学の体系
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25370066
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Research Institution | Hokkaido Musashi Women's Junior College |
Principal Investigator |
榊 和良 北海道武蔵女子短期大学, その他部局等, 講師 (00441973)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インド・イスラーム思想史 / 翻訳史 / ペルシア語 / 輪廻 / 贖罪法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究活動は、集めた資料の翻訳作業と、学会発表、およびインドでの写本資料調査を行った。学会発表としては、9月に日本宗教学会第75回学術大会において、「業と輪廻―カルマ・ヴィパーカのイスラーム的解釈の展開」と題して発表をおこなった。サンスクリット語古典の翻訳にもとづくペルシア・アラビア語文献に見いだされるインドの業報輪廻観の解釈の変遷をたどり、中世末期に翻訳されたカルマ・ヴィパーカ文献に示された贖罪法にイスラーム的贖罪法に通じるものが認められ、善悪の果報を示す説話文学、原典にもとづく思弁的理解を経てヴェーダ文献にルーツをたどられる祭式伝統における贖罪法を通してインド人の輪廻観が理解されたことを示した。資料調査としては、平成29年2月に、3週間にわたりインド現地調査をおこなった。プーナのBhandarkar Oriental Research Instituteなどにてヨーガおよびタントラに関連するサンスクリット語と土着語の写本調査を、ハイデラバードのSalar Jung Museum Libraryなどでは、ペルシア語の写本調査と収集をおこない、さらにデリーのIndira Gandhi National Centre for the Arts において、写本マイクロ資料の調査をおこなった。この調査では、今まで言及されたことのなかったヨーガ関連の新写本を発見し、典拠不明のペルシア語訳とされた文献の原典と同定できたことは有益であった。また、懸案であった「アムリタ・クンダ」の基づいた原典同定のための大きな証左を、サンスクリット語写本に描かれた図に見出すことができた。さらには、ペルシア語で著された占星術書断片集におけるサンスクリット語古典からの翻訳文献を発見できたことも、今後のヨーガや占星術古典の伝播プロセスの研究に役立つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インドの伝統的な学問体系が、どのようにイスラーム系言語によって紹介され、どのように個々のサンスクリット語古典の翻訳・翻案文献とかかわり、イスラームの学問体系と結びつけられているのかを明らかにするという目的の達成のために、幅広い学問分野の文献を扱うことになった。インドの伝統諸学のペルシア語訳された学問体系の全体を鳥瞰するための手段として、アブル・ファズルによる『アクバル会典』やモーベド・シャーによる『諸学派の学院』に「インド人の見解」として描かれる哲学諸派の考え方を基本とし、『真理の綱要』と題された翻訳・翻案撰文集に含まれる文献との比較対照を行ってきた。これらの叙述に関して、個々の学問分野のペルシア語訳文献ばかりではなく、当時ペルシア語で著された百科事典も参照して、サンスクリット語古典の示す教理と比較対象を行ってきた。これらの百科事典は新たな独立した主題としても研究対象となりうるものであり、整理・分析が必要である。 基本となる『アクバル会典』のインドの哲学諸派の部分の原典の整理と翻訳、『真理の綱要』との対照に関しては、ほぼ順調に進んでいる。『諸学派の学院』に関しては、サンスクリット語原典からの引用部分がそれほど認められないことがわかってきたために、諸学派・諸宗派を扱ったイギリス植民地時代の報告にまで参照文献を拡大する必要性がでてきた。それらの収集と分析は進めつつある。 もう一つの柱である「創世神話」については、ペルシア語による翻訳・翻案文献の叙述の整理はついているものの、歴史書における叙述との対照は残されており、分析をすすめているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度ということで、研究成果報告として『アクバル会典』と『諸宗派の学院』に示されたインド古典諸学の体系の中の哲学諸派の記述に関して、和訳に注釈をつけて、関連するペルシア語の翻訳文献の解題をまとめる。学会発表としては、諸翻訳・翻案文献に描かれた死生観に注目して、『ナチケータス物語』を中心として、死後の世界のとらえ方をめぐって、翻訳・翻案文献が何を伝えてきたかを発表する予定である。『アクバル会典』や『諸宗派の学院』に示される、インド人の死をめぐるさまざまな儀礼やそれに対するイスラーム的な評価・解釈などを含めてまとめてみたい。また年度末に開かれるPerso-Indicaの学会において、翻訳翻案文献に一つの大きな流れをつくった呪術的な知識の伝播とその経路について発表する予定である。『アクバル会典』については、Perso-Indica が共同主宰して2018年度に内外の研究者による日本でのワークショップの開催が予定されており、そこでインドの伝統諸学の中でも哲学思想分野の翻訳文献の紹介およびインド思想史における『アクバル会典』および『諸宗派の学院』の位置づけを発表できるように準備する。さらに古典インド諸学の分類や概要を説明したペルシア語百科事典、およびイギリス植民地時代に入ってからの諸宗派に関する報告などは、あらたな研究の主題として分析対象となりうることから、集めた資料の整理を行っていく。
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Causes of Carryover |
大英図書館に依頼していた写本の複写が年度内に完成しなかったため、その分の予算が消化できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
写本複写が完成した時点で請求があるはずである。
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Research Products
(1 results)