2014 Fiscal Year Research-status Report
「聖なるものの顕現」における図像・造形物・言葉の働き-画像資料と儀礼から-
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25370069
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
細田 あや子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (00323949)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 聖なるものの顕現 / ヴィジョン / パフォーマティヴィティ / 儀礼 / 祈り / 宗教美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、「聖の顕現の図像学」の構築のために、聖なるものの顕現に関する資料として、ハインリヒ・ゾイゼの著作『範典』を解読、分析し、「幻視と夢の図像学」の三類型を精緻化した。その結果、次元の異なる場を表現したヴィジョンや夢の図像は、見方によって多義的な解釈を可能とさせるため、ゾイゼの『範典』写本の挿絵においては、これまでに構築してきた三つのタイプ(①幻視者のみが描出されているもの、②幻視者とヴィジョンの内容があわせて描出されているもの、③幻視の内容のみが描出されているもの)に分類することが難しい場合が多いことも明らかとなった。したがって、なぜヴィジョンの図像が多く描かれたのかという点に着目し、聖なる空間の顕現(ヒエロファニー)であるヴィジョンが、人間に対してどのように表現されているか、聖の空間がどのように表現されているかということを検討した。それによって、祈りに対する応答というゾイゼのヴィジョンの図像の特徴が明らかとなった。祈りに対する応答として聖母子像や十字架磔刑像が生きているように手をさしのばしたり動いたりする表現は、宗教実践で用いられる祈念像などの造形物が力、パフォーマティヴィティ(行為遂行性)を有し、それを視覚化した図ととらえられるのである。 さらに宗教的コンテクストにおける造形物のパフォーマティヴィティについては、古代メソポタミアの資料から、新年祭の儀礼について分析し、そのときに行われる神像行列を考察した。神像を用いて占いをするという文献からは、神像が生きている神自身のように理解されていることが明らかとなった。毎年のはじめに行われる新年祭において、その年の豊饒や安寧を占う際、神像(=神)がきわめて大きな役割を果たすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献講読、分析の面でキリスト教、古代メソポタミアの資料にあたることができ、祈祷図、儀礼図も比較検討して「聖の顕現(ヒエロファニー)の図像学」へ統括できるような構想が得られた。今後、儀礼コンテクストを重視して研究を進めてゆく。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、造形物などが聖なる顕現をもたらすことをテクスト資料および画像資料から考察する。とくに聖なるもの、神や超越者などとそれに応答する側との関係をより明確化するため、祈祷図、礼拝図、儀礼図を分析する。さらに儀礼における造形物の役割、機能を考察する。像を用いた儀礼の資料を解読する。また、日本各地にある東方教会典礼の調査を実施する。その際、イコン、イコノスタシスなども観察し、図像、造形物と儀礼と教会空間の関係を分析する。儀礼のパフォーマティヴィティ(行為遂行性)についてより精緻に分析する。認知心理学、文化人類学などの方法も援用する。
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Causes of Carryover |
宗教的コンテクストにおいて造形物や像がどのような機能を果たすのか、海外での調査の期間が十分ではなく、未使用額が生じた。また、旧約聖書の幻視、「ヨハネ黙示録」、聖人伝(アッシジのフランチェスコ、聖グレゴリウスのミサ)などの文書資料を分析する時間的余裕がなかった。そのための文献資料をそろえることができず、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料をそろえ、また資料調査のための旅費を支出する予定である。
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