2015 Fiscal Year Research-status Report
3.11以降の環境文化とエネルギー政策の倫理的基盤の構築
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25370079
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小原 克博 同志社大学, 神学部, 教授 (70288596)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境文化 / エネルギー政策 / 宗教 / 自然観 / 原発 / 未来世代 / 倫理 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能なエネルギー政策を実現するために、科学技術に対する倫理視座が必要であるが、本年度の研究では、その宗教倫理的な応答として「不在者の倫理」の基礎的構築をなすことができた。 宗教倫理が持続可能な社会の形成に固有の貢献を果たすためには、現代世代の利益を最大化することを前提とした近代的(西洋的)なコミュニティ意識を批判的に検証し、過剰に人間中心的でもなく、現代世代中心的でもない公共性を再発見・再解釈する必要がある。日本宗教の場合、世代間の権利関係を超えて、生者と死者の関係、生命・非生命の関係にまで議論を広げることができるポテンシャルを有している。そこで「過去の不在者」と「未来の不在者」を統合的に見、その中間存在としての「現在の存在者」(我々)を倫理的に止揚する視点として「不在者の倫理」(Ethics of the Absent)を考案した。 「不在者の倫理」は宗教文化と世俗をつなぐインターフェース(interface)を備える必要があるが、その中心的な機能として以下の三点をあげることができる。(1)記憶の倫理:伝統宗教が持つ、世代を超えて出来事や記憶を継承する作法を、歴史的教訓を顧みない健忘症的な情報化社会において展開する。(2)食の倫理:公共性の原点(公共性の転換)としての食卓(食の共同体)を、エネルギーの大量消費・貧富の格差を前提とする世界に対置させる。(3)犠牲の倫理:伝統的共同体に組み込まれていた相互犠牲のシステム(世代間コミュニティ)を批判的に展開し、特定の人々(地域)に犠牲を強いることによって成り立っている社会構造(エネルギー供給)の問題性を明らかにしていく。 以上のように、公共性の中に宗教をいかに位置づけるか(3.11以降の中心的な議論)ではなく、宗教の中に閉じ込められている「公共性」を解放する試みとして「不在者の倫理」を展開することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エネルギー政策や科学技術に対する包括的かつ批判的な視座を提供するために、宗教倫理がどのような要件を備えるべきかについて、基本的な構想を得ることができた。それによって、問題解決のためのより具体的な提言をするための準備をすることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度において、これまでの成果をまとめる必要がある。上述した新たな構想に、実行可能な具体性を与えることができるよう細部を検討していく。
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Causes of Carryover |
計画は順調に進んでいるが、予定していた海外出張が他の経費でまかなえたため、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
年度計画に従って、研究を進め、差額を考慮した助成金運用を行いたい。
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