2013 Fiscal Year Research-status Report
主客未分の体験を現代芸術の造形に照らして相互ケアの論理へと再編成するための研究
Project/Area Number |
25370084
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宮 一成 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20144404)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 主客未分 / 自他未分 / 精神分析 / フロイト / ラカン / 現代芸術 / 喪 / ケア |
Research Abstract |
本研究の目的の前半は、「従来しばしば「主客未分」などとして語られてきた自他の共有領域の構造、起源、そして機能を、現代芸術の身振りによって、明らかにすること」である。この目的に沿い、平成25年度に関して、この自他の共有領域をめぐる文献の糾合を行って、現代芸術における空間構成のあり方を参照しながら考察し、論文化する計画を立てた。そして昨25年度中に、現代芸術の作品として、ゴンザレス=トレスの作品を取り上げて、上記の「主客未分」の領域の構造についての微視的な解明を行い、この領域に関しては「主客未分」と見えているものは、より精密には「主体の位置変換」と言えるような細かな往還運動の連続体であることを明らかにした。この運動は、視点を能動極と受動極のそれぞれに取ることによって「主体の消失」という位相を含むことになり、体験構造としてこの消失の位相が重要となることが見いだされた。トレスの作品がインスタレーション作品であり、また彼の対象喪失経験を反映したものであったことから、とくに「喪」という人間的経験の範例において、生者と死者の間でのこの領域の活動が大きな意味を持つ可能性が強く示唆された。またこの往還運動の起源は、幼年期よりの人間の自己意識の形成過程に求められる。研究協力者を指導し、これらのことを「主体の喪失-「主体の位置変換」と「寸断された身体」を通して-」と題した論文にまとめて、研究協力者が投稿した(査読中)。 また、「主客未分」の領域の動態をケアの行為において探査するという課題について、リハビリテーションの理論と実践を、この探査の領域に選び、関連する文献の調査を開始した。リハビリテーションでは、他者の「身体図式」という空間体験を共有することが問題になることから、ここで問題にしている自他の共有領域の把握を適用し、ケアという行為のより良い概念化に繋いでゆく予定を立てた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画のうち、概念形成の部分を遂行したが、投稿した論文の査読結果がまだ出ていないこと。当初より研究目的の遂行を、概念形成と実践的探索/検証の2段階に分けているが、投稿論文が受理された時点で第1段階が完了すると考えている。 計画のうち、現代美術の作品制作を実践するという点について、これからの制作実践に当たって、海外の作品制作のリサーチを行う予定を立てているが、リサーチのフィールドについて選定作業の段階である。 リハビリテーションの領域における身体図式の探査という点について、臨床のフィールドを構築する作業がまだ着手の段階である。 上記の2点は第2段階の作業であるが、25年度中にはフィールドの作業にまだ入っていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
作品制作のために海外の研究者や作家との交流を行う点については、海外へ研究代表者や協力者が出かけることに加えて、海外からの招聘を加え、討論を積み重ねる機会を増やし、主客未分と主体の位置変換の領域の概念を作品へと繋げる力にする。 作業療法の臨床家との現在の研究協力を、研究会や成果交換を中心としたものから、臨床的な実践を大きく含んだものへと変えて、ケアの論理の構築のための知見を得る。 この2点を、平成26年度に推進すべきことがらとする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度においては主客未分の領域に関する諸概念の総合と本研究における概念形成に取り組み、論文を作成した。物品として書籍が必要であったがこれについては精神分析分野の主に現有の書籍を用い、また旅費は25年度についてはフィールド探査を近隣のみにとどめ、海外との交流についても素案を作成するにとどめたので、予定額の大部分が次年度使用額となった。 平成26年度においては、国内遠隔地からの招聘による講演を2件、研究代表者と研究協力者の海外渡航による芸術における主客未分の領域の扱いをめぐる調査を2件、海外からの招聘を2件、さらに主客未分の領域の臨床場面における探査を行うにあたり協力者への謝金支払いを計画している。国内招聘の2講演に計12万円、海外渡航と海外からの招聘に計160万円、臨床での謝金に20万円を見込んでいる。現代美術における作品制作に必要な額と合わせ、次年度使用額と翌年度分の合計額が必要となる見込みである。
|