2014 Fiscal Year Research-status Report
主客未分の体験を現代芸術の造形に照らして相互ケアの論理へと再編成するための研究
Project/Area Number |
25370084
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宮 一成 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20144404)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 主客未分 / 自と他の融合 / 現象学 / 精神分析 / 現代美術 / ケア論 / リトラル / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度中に、現象学的に主客未分の領域とされてきたものを、精神分析における「リトラル(沿岸地帯)」の概念の中に見出し、それを精神分析の、なかんずくフロイト自身の文献とラカンの講義録の中で跡付けた。その内容を現代美術の映像表現として具体化する展示を行った。その際には研究代表者の新宮と研究協力者の岡田が討論してコンセプトを作り、大阪芸術大学の大橋勝講師が制作に当たり、映像を展示した。人間の身体内部を形作る水分の感覚と外界から注がれる光の交錯を、リアプロジェクションを用いて一つの面に示したこの作品については、映像が部屋の全体を満たしているように感じられるという評が得られ、いわゆる主客未分の領域の有する、内部と外部の相互移行による全体性という一要素を、感覚的に取り出すことができた。 また「リトラル」の概念には海と陸の間において相互移行を見出すという志向性が含まれているので、陸にあるものを自己の身体とすると、他の諸身体のありようを海としてとらえ、両者の間に移行や重なりを見出すことが有用である。研究代表者はこの点について、フロイトの欲動論と治療論の論文を再検討し、自己身体と他者の身体の差異を消去するという幼児期の空想的な遊びの経験を持っていた自験例を、フロイトの概念に沿って検討し、転移の構造の中で、「海辺」の表象がこの差異の消去の舞台として選ばれるという無意識に備わった傾向を明らかにした。 そして現在、研究代表者の新宮と研究協力者の佐藤は、他者の身体を如何に自己身体と重ねて感じうるのかという課題への応答を、脳卒中後のリハビリテーションにおける治療者の経験から引き出すことを試み、所属研究科の倫理委員会の承認を経て、当事者の語りのデータを収集しており、これを質的研究の方法論的解析にかけて論文化するための作業を行っているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主客未分または自他の融合の現象学的記述と精神分析的構造化を、現代美術の造形による検証とケアの現場の記述から行う計画のもとに研究を進め、現代美術の造形について実際の映像美術の制作、および、ケアの現場でのインタビューを行った。それらにより作品展示を実践しインタビューのデータを収集することができた。 しかし、前者に関しては他の現代美術作品との比較に基づく構造的考察を論文化することがまだ残されており、これについては26年度中に投稿できなかった。また後者に関しては他者の身体になってみるという表現に実質を与えてケア論として論文を作成中であるが、その投稿が26年度中にできなかった。招聘講演と海外調査の結果を参照して、精神分析における主客未分に関わるイメージの構造化について、一つの論文の掲載が26年度中に実現したが、もう一つの論文作成についてはまだ資料収集の段階である。
|
Strategy for Future Research Activity |
3つの領域に分け、完成に向けて研究を推進する。一つは現象学的な主客未分の領域を精神分析的に構造化すること。この際に現代美術の造形の論理を参照する。第二は、第一の領域で参照した現代美術の造形において、言語化されないまま用いられている主客未分の論理を取り出すこと。第三は、ケアの領域において「他者の身体」がどのように経験されているかを検証し、上記の二つの領域で構造化された主客未分の論理をそこに適用して、ケアの実際において「他者の身体」の経験を感覚的に拡張することである。 第一の領域では、精神分析の分野に立脚して理論的な論文を前報に引き続いてもう一つ執筆する。第二の領域では、海外における現代美術に潜在する主客未分のテーマを取り出して、現象学と精神分析を用いて構造化して論文を執筆する。第三の領域では、すでに収集されているデータの解析を迅速に行って、論文にまとめて投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
現代美術作品を、映像インスタレーションとした。費用は物品費と作品の構造物の組立設置委託料である。後者には多くの額がかかり予定を少し超えたが、物品費は予定よりもかなり少額であった。26年度中の海外渡航の予定のうちの一つが、先方との時間調整が困難となって実現できなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
現代美術の制作において確認できたことを再確認し普遍化するためにもう一度作品制作をおこなう。主客未分の領域について思索を深めて27年度の論文につなげたい。やはり映像インスタレーションとなり、組立などの委託費用に用いたい。 研究計画の中の合奏における主客未分の体験についても映像と組み合わせて行いたい。再び映像インスタレーションとなる予定である。海外の現代美術作品をめぐる精神分析的な討論の機会については、26年度にできなかった計画を再構成する。上記の作品制作と、海外での資料収集を迅速化するために、27年度より共同研究者を選定し、共同研究者の使用額を定めた。 ケアの論理については、現在、作業療法士や患者とその家族へのインタビューのテープ起こしの作業がほぼ終わっており、解析を急いでいる。この面での研究会を開くことを予定している。
|
Research Products
(5 results)