2015 Fiscal Year Annual Research Report
朝鮮前期士大夫の民族文化観形成ー対外・対内経験との関わりから
Project/Area Number |
25370089
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
野崎 充彦 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (90244623)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 儒統 / 朴世采 / 東儒師友録 / 風水思想 / 歴史認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題である「朝鮮前期士大夫の民族文化観形成ー対外・対内経験との関わりから」に則り、まず朝鮮士大夫のアイデンテティ確立に最も大きな影響を及ぼした儒統の形成過程について研究した。張志淵(1864~1921年)の『朝鮮儒教淵源録』をはじめ、時代の激動期には多くの儒統書が編纂されているが、それらは朝鮮士大夫のアイデンテティ確認への希求の反映ともいえよう。 なかでも、朴世采(1631~95年)の『東儒師友録』は朝鮮儒統の確立に決定的な影響を及ぼしたが、それにはいくつかの理由がある。先ず、①17世紀後半の朝鮮宮中ではいわゆる党争が激化、主流派・反主流派の覇権争いが膠着状態に陥っていた。②その打開策としてた蕩平策(派閥に拘らず人材登用の機会を与える政策が採られた。③朴世采は己が所属する派閥から比較的自由な立場をとり、対立するグループに対しても客観的で公平な評価を下すことができた。以上の3点である。①②は時代的な与件によるものだが、特筆すべきは③の視点を貫くために朴世采が膨大な文献資料を可能なかぎり主観を交えず引用したことである。この手法により、朝鮮儒統の記述は初めて可能になったといえ、それ以後の儒統書に大きな影響を与えることとなった。 その一方、具体的な人選作業においては天使(中国皇帝の使者)の要求に応じて人物批評家の検討を繰り返す試行錯誤があったことを『朝鮮王朝実録』や同時代の士大夫文集からつきとめ、国内のみならず国外からのプレッシャーの中で朝鮮の儒統が形成されていったことを明らかにし、論考「朝鮮道統形成の一側面ー『東儒師友録』」としてまとめた。 次に、朝鮮風水思想の時代的な変遷について考察し、韓国道教学会の招待公演で発表したが、これについてはいずれ単行本として刊行する予定である。また、韓国史に対する歴史認識を研究ノート「記憶の作法」としてまとめ、学会誌に投稿し掲載された。
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Research Products
(4 results)